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他人の畑を堂々と歩ける国——パブリック・フットパスという中世の遺産

私有地の真ん中を通る歩道を、誰でも自由に歩ける。英国に張り巡らされた約23万kmの歴史的歩道網と、その背後にある土地と歩行の権利の物語。

2026-08-06
フットパスウォーキング田園英国文化

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英国の田舎を歩いていると、農家の私有地のど真ん中を一本の小道が貫いていることに気づく。柵には「Public Footpath」と書かれた小さな標識。羊が草を食む牧草地を、見知らぬ歩行者が当然のように横切っていく。地主は止められない。これが英国に網の目のように張り巡らされた、公共歩道のネットワークだ。

私有地なのに、誰でも歩ける。この一見奇妙な権利は、中世から続く人々の歩行の歴史が法律として結晶したものだ。

「ずっと歩いてきた道」が権利になる

英国の公共歩道は、誰かが計画して作ったものではない。何世代もの人々が、教会へ、市場へ、隣村へと歩き続けた経路が、長い時間をかけて「公共の通行権」として認められてきた。使い続けられた道は、誰のものでもなく、みんなのものになる——そういう発想だ。

イングランドとウェールズの公共歩道の総延長は約23万kmにのぼるとされる。地図上に細い緑の点線として記され、自治体が維持管理の義務を負う。土地の所有権と通行の権利が別々に存在する、というのが英国の土地制度の面白いところだ。

所有と利用を切り分ける思想

日本の感覚では、土地を所有することは、そこを排他的に使えることとほぼ同じだ。だが英国では、土地を「持つ」ことと、人が「通る」ことは別の問題として扱われる。地主は土地を所有していても、昔から通る人がいた道を塞ぐことはできない。

これは図書館の本に似ている。本という物体は図書館のものだが、読む権利は市民みんなにある。所有と利用が分離している。英国の歩道は、田園にこの原理を適用した壮大な仕組みだ。

歩く権利を守ろうとする運動には長い歴史がある。地主が道を閉ざそうとするたび、人々は「ここは昔から歩いてきた道だ」と主張し、歩く行為そのもので権利を再確認してきた。歩くことが、政治的な行為でもあった時代がある。

標識と門のマナー

歩道には独特の作法がある。牧草地に入る門は、家畜が逃げないよう必ず閉める。作物を踏まない。犬は管理する。これらは法律というより、土地を貸してくれている地主への礼儀だ。権利には責任が伴う、という静かな合意の上に成り立っている。

在英日本人が歩き出すために

英国に暮らすなら、この歩道網は使わない手はない財産だ。週末に近くの公共歩道を歩くだけで、観光地では決して見られない英国の素顔——農場、古い教会、丘の上の眺め——に出会える。費用はかからない。

地図アプリや専用のウォーキングアプリで近隣のフットパスを確認できる。最初は短いルートから始めるといい。歩きやすい靴と、雨に備えた上着があれば十分だ。私有地を堂々と横切る最初の一歩には少し勇気がいるが、それこそが英国の田園を最も深く味わう方法になる。

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