英語だけじゃないイギリス——ウェールズ語とゲール語が生き残る理由
「イギリス=英語」ではありません。ウェールズでは学校でウェールズ語が必修、スコットランドではゲール語放送が続く。少数言語の保護とアイデンティティの関係を探ります。
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ウェールズの道路標識は2言語表示だ。英語の下に、もうひとつの言語が並んでいる。例えば「Slow」の下に「Araf」。これがウェールズ語(Cymraeg)だ。
「イギリスは英語の国」という前提は、ウェールズに着いた瞬間に揺らぐ。
ウェールズ語の現状
ウェールズの人口の約30%弱がウェールズ語を話せると報告されている(2021年センサスデータ)。北ウェールズの一部(Gwynedd等)では人口の半数以上が日常的に使う地域もある。
ウェールズ語はウェールズの学校で義務教育として全員が学ぶ(2022年のカリキュラム改革で)。BBC Cymru Wales(英語)とS4C(ウェールズ語)というテレビ局がある。議会(Senedd)ではウェールズ語でも発言できる。
これは「保護」ではなく「共用語化」に近い取り組みだ。絶滅危惧言語を博物館に入れるのではなく、生活の中で使い続ける選択をしている。
スコットランド・ゲール語
スコットランドでは、ゲール語(Scottish Gaelic)を話す人口は非常に少なく、2011年センサスでは5万8,000人程度とされていた(スコットランド総人口の約1%)。主にヘブリディーズ諸島などの西部高地に集中している。
BBCはゲール語のラジオ・テレビ放送(BBC Alba)を維持している。ゲール語中等学校も存在し、完全なゲール語教育を受けられる子どもがいる。
なぜ言語を守るのか
言語は「コミュニケーションツール」である以上に、「文化的記憶の容れ物」でもある。ウェールズ語で書かれた詩、ゲール語の口承文学——その言語でしか完全に伝わらないものがある。
また、言語はアイデンティティと直結する。「ウェールズ人である」「スコットランド人である」ということの具体的な表れとして、言語は機能する。単なる意思疎通の手段ではない。
在住者として出会う場面
ロンドンや英国全体で生活している限り、ウェールズ語やゲール語に遭遇する機会は少ない。しかしウェールズを旅行すると、地名・看板・案内の2言語表示が目に入る。カーディフやスウォンジーでもウェールズ語の看板が随所にある。
「英語さえあればどこでも通じる」が基本的には正しい。ただ、それだけでは見えない層がこの国には存在している。