セカンドハウスが村を空洞にする——観光地の家が住めなくなる構造
コーンウォールや湖水地方の美しい村で、家の多くが普段は無人のセカンドハウス。地元の若者が住めなくなる「幽霊村」現象の経済構造を解き明かす。
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夏の海辺の村は、絵葉書のように美しい。石造りの家が斜面に並び、港には小舟が揺れる。ところが冬になると、同じ村の窓の多くは暗いままだ。観光シーズンだけ持ち主が訪れ、それ以外は無人になる家——セカンドハウスが、英国の人気観光地で深刻な問題になっている。
美しい村ほど、そこに住み続けられる地元の人が減っていく。この逆説が、観光と不動産が交差する場所で起きている。
「住むため」より「持つため」の家
コーンウォール、湖水地方、コッツウォルズといった人気エリアでは、家を「住むため」ではなく「持つため」「夏に使うため」に買う層が一定数いる。都市部で資産を築いた人々にとって、景観の良い村の家は休暇の拠点であり、同時に値上がりの見込める資産でもある。
問題は、そうした購入が地元の住宅価格を押し上げることだ。地元で働く若い世代の給料では、観光客向けに値段がつり上がった家に手が届かない。結果として、生まれ育った村に住み続けられない人が増えていく。
「幽霊村」が生む連鎖
人口の多くがセカンドハウス所有者になると、村の機能そのものが弱る。一年を通して使われる家が減れば、地元のパン屋もパブも商店も、客が足りず立ち行かなくなる。学校の生徒数が減り、バスの本数が削られる。
サービスが消えれば、ますます定住者が住みにくくなる。住みにくくなれば定住者が減る。この悪循環が、見た目は美しいのに生活機能が空洞化した「幽霊村」を生む。
生態系にたとえるなら、見栄えのいい外来種が増えすぎて、もともとの生物群集が支えられなくなった池に似ている。水面は華やかでも、循環は止まっている。
自治体が打てる手の限界
一部の自治体は、セカンドハウスへの固定資産税(カウンシルタックス)を上乗せしたり、新築物件を地元居住者に優先的に売る仕組みを導入したりしている。こうした対策が広がりつつあるのは、それだけ事態が深刻だという裏返しでもある。
ただし制度には限界がある。家を誰に売るかは最終的に持ち主の自由であり、価格を行政が直接コントロールするのは難しい。観光収入が地域経済を支えている以上、観光客を遠ざける施策は取りにくいというジレンマもある。
在英日本人が地方移住で考えること
英国の地方への移住を考えるとき、観光地として有名な村ほど、定住者にとっては暮らしにくい面があると知っておくといい。家の価格が高く、冬は静まり返り、地元コミュニティへの溶け込みにも時間がかかる。
逆に、観光地としては地味でも一年を通して人が暮らしている町のほうが、商店も病院もパブも生きていて、生活インフラが整っていることが多い。絵になる風景と、暮らしやすさは必ずしも一致しない。家を見るときは、夏の昼ではなく冬の夜に窓の灯りがいくつ点いているかを想像してみると、その村の本当の姿が見えてくる。