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イギリス賃貸の敷金(Deposit)は政府認定機関が預かる——TDSの仕組みと返還の実務

イギリスの賃貸では敷金を大家が直接保管できない。政府認定のTenancy Deposit Scheme(TDS)に預ける法的義務がある。預け入れから返還までの流れと紛争解決の手順を解説。

2026-05-29
敷金デポジット賃貸TDSテナント権利

この記事の日本円換算は、1GBP≒195円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(GBP)の金額を基準にしてください。

日本の賃貸では敷金は大家が預かり、退去時に原状回復費を差し引いて返還される。トラブルが起きたら、交渉するか、最悪は少額訴訟。イギリスでは違う。大家が敷金を自分の口座に入れておくこと自体が違法だ。

Tenancy Deposit Scheme(TDS)とは

2007年のHousing Act 2004の施行により、イングランドとウェールズでは、Assured Shorthold Tenancy(AST、標準的な賃貸契約)の敷金を政府認定の保護スキームに預けることが法的に義務化された。

認定スキームは3つ:

  • Deposit Protection Service(DPS): 無料。敷金を第三者機関が保管する「Custodial」方式
  • MyDeposits: 保険方式。大家が敷金を保管するが、保険でテナントを保護
  • Tenancy Deposit Scheme(TDS): 保険方式。大家が保管+保険でカバー

大家は敷金を受け取ってから30日以内にいずれかのスキームに登録し、テナントに「Prescribed Information」(スキーム名、敷金額、紛争時の手続きなど)を書面で通知する義務がある。

大家が違反したらどうなるか

大家が敷金を保護スキームに預けなかった場合:

  • テナントはSection 21 notice(退去通知)を無効化できる
  • 裁判所に訴えると、敷金の1〜3倍の罰金が大家に課される
  • つまり£1,500の敷金を預けなかった大家は、最大£4,500をテナントに支払うリスクがある

これは日本の賃貸にはないテナント保護だ。

敷金の上限

Tenant Fees Act 2019により、敷金の上限は:

  • 年間家賃£50,000未満の物件: 5週間分の家賃
  • 年間家賃£50,000以上の物件: 6週間分の家賃

ロンドンで月£1,800のフラットなら、敷金の上限は£2,077(5週間分、約40.5万円)。日本の「敷金2ヶ月」に比べると低い。

退去時の返還プロセス

  1. 退去日にInventory check(物件の状態確認)が行われる
  2. 入居時のInventory report(写真付きの物件状態記録)と比較
  3. 大家が差し引きなしに同意すれば、スキームから全額返還(通常10営業日以内)
  4. 大家が修繕費を請求する場合、テナントと交渉

紛争解決(ADR)

大家とテナントの間で差し引き額に合意できない場合、保護スキームが提供する**Alternative Dispute Resolution(ADR、裁判外紛争解決)**を利用できる。無料で、独立した裁定人が証拠を審査して判断を下す。

ここで重要なのがInventory reportだ。入居時と退去時の物件の状態を写真で記録した報告書がなければ、大家はクリーニング代や修繕費の請求を立証できない。

テナント側の防衛策:

  • 入居日に物件の全部屋を写真で記録する(日付入り)
  • 既存の傷・汚れはInventory reportに記載を求める
  • 退去前にプロのクリーニング(End of tenancy cleaning、£150〜£300 / 約29,250〜58,500円)を入れる

契約後30日以内にPrescribed Informationを受け取ったか確認し、どのスキームに登録されているか記録しておく。入居日の写真は必ず撮る(スマホのタイムスタンプが証拠になる)。仕組みを知っていれば、不当な差し引きから自分を守れる。

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