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Wellies——イギリス人が泥を恐れない理由と長靴の階級学

Wellington boots(ウェリントンブーツ、通称ウェリーズ)はイギリスの国民的シューズだ。音楽フェス、農場、ドッグウォーク、学校行事。ゴム長靴がなぜ階級を横断する万能装備になったのか。Hunter、Barbour、そして泥の文化。

2026-05-16
イギリスWellington bootsウェリーズHunterアウトドア

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グラストンベリー・フェスティバルのテレビ中継を見ていると、観客の足元は全員ゴム長靴だ。泥だらけのフィールドで、10万人がHunterやJoules、あるいはスーパーの£10の長靴を履いて音楽を聴いている。イギリス人にとって泥は災害ではなく、天気の一部だ。

Wellington Boots の由来

Wellington boots(ウェリントンブーツ)の名前は初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリー(1769-1852)に由来する。ナポレオン戦争の英雄であるウェリントン公爵が、従来のHessian boots(乗馬用ブーツ)を改良して、よりタイトで歩きやすいブーツを注文した。

このスタイルが19世紀のイギリス貴族の間で流行した。元々は革製だったが、1852年にチャールズ・グッドイヤーがゴムの加硫法を実用化して以降、ゴム製のWellington bootsが普及した。

1956年、Hunter Boot Ltdが「Original Green Wellington」を発売。これが現在まで続くHunter Bootsの原型だ。

Hunter vs Barbour

イギリスのカントリーサイド(田舎)の制服は「Hunter Boots + Barbour Jacket」だ。

Hunter: スコットランド発のゴム長靴ブランド。フラッグシップモデルの「Original Tall」は£120〜£150(約23,400〜29,250円)。王室御用達(Royal Warrant)。2000年代にケイト・モスがグラストンベリーで履いたことでファッションアイテム化した。

Barbour: 北東イングランド・サウスシールズ発のワックスジャケットブランド。クラシックモデル「Bedale」は£250〜£300(約48,750〜58,500円)。防水・防風で、何十年も持つ。リワックス(ワックスの塗り直し)サービスがある。

この組み合わせは上流階級のカントリースタイルだが、2010年代以降は都市部のミドルクラスにも広がった。チェルシーやフラムの住宅街で犬を散歩させている人の足元はHunterの長靴だ。

Muddy Fields(泥のフィールド)

イギリスの年間降水量はロンドンで約600mm(東京の約4割)と実は少ないが、降る日数が多い。年間150日以上は雨が降る。結果として地面は慢性的に湿っており、少しの雨ですぐ泥になる。

この泥と共存するための道具がWellington bootsだ。

音楽フェスティバル: グラストンベリー、Reading、Leedsなどの野外フェスは泥が前提。天気予報に関わらずウェリーズを持参するのが常識。2024年のグラストンベリーでは、初日の大雨でフィールドが膝下まで泥に沈んだ。

Dog Walking(犬の散歩): イギリスの犬の飼育数は約1,200万頭。田舎のフットパス(公共の散歩道)を犬と歩くとき、長靴は必須。Public Right of Way(公道通行権)により、農場を横切るフットパスも多く、牛糞の中を歩くことがある。

学校行事: Forest School(森の学校)プログラムを導入している小学校では、子どもにWellington bootsの常備が求められる。雨の日も外に出る。

スーパーの£10長靴

Hunterが高級ブランドである一方、スーパーマーケット(Tesco、Sainsbury's、Asda)やPrimarkで£8〜£15(約1,560〜2,925円)のWellington bootsが大量に売られている。

機能的にはHunterと同じ——ゴムの長靴だ。デザインやフィット感に差はあるが、泥を防ぐという基本機能に£150払うか£10で済ませるかは、まさに階級の選択だ。

面白いのは、どちらの長靴を履いていても同じ泥の中を歩くということ。グラストンベリーのフィールドでは、Hunterも£10の長靴も等しく泥にまみれる。泥は階級を均す。

日本との比較

日本でゴム長靴を履くのは、農作業か雨の日の通学くらいだ。大人がゴム長靴でカフェに入ることは想像しにくい。

イギリスではWellington bootsでパブに入るのは完全に普通だ。カントリーサイドのパブでは客の半分がウェリーズだ。ロンドンのハイストリートでも、雨の日にHunterのウェリーズを履いたスーツ姿のビジネスマンを見かける。

泥や雨に対するアティチュードが根本的に違う。日本人は雨を避ける。イギリス人は雨の中に出て行く。その差がウェリーズの文化を生んだ。


主な参照: Hunter Boot Ltd公式サイト価格表(2026年4月時点)、Met Office UK Climate Averages降水日数データ、PDSA PAW Report 2024 イギリスペット飼育統計

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