香港の50平米と東京の50平米は別の空間だ
同じ50平米でも天井高・収納設計・共用部・日照で体感面積が全然違う。東京のマンションを基準に香港を想像するとズレる理由を、空間設計の話として具体的に展開する。
この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(HKD)の金額を基準にしてください。
香港で50㎡の部屋を借りた。数字の上では東京の1LDKと同じはずだ。だが中に入ると、別の空間にいることに気づく。
天井高: 2.5mと2.4mの差が生む圧迫感
香港の住宅の最低天井高は2.5m(Buildings Ordinance、建築条例)。実際にはスラブ間の構造高から配管・梁の下がり天井を引いた実効天井高は2.3〜2.5mに収まる物件が多い。
東京のマンションは天井高2.4〜2.5mが一般的で、タワーマンションでは2.5〜2.6mも珍しくない。
数字だけ見ると大差ないが、香港の問題は天井高ではない。部屋の幅だ。
間口の狭さが体感面積を決める
香港のアパートメント(特に築30年以上の公営住宅やトンラウ=唐楼)は、間口が狭く奥行きが深い設計が多い。50㎡のフラットでも、間口3m×奥行き15mのような細長い配置がある。
東京の50㎡マンションは、間口6〜7m×奥行き7〜8mが一般的だ。リビングに窓が2面取れる物件も多い。
同じ50㎡でも、間口が半分なら窓面が半分。自然光が入る面積が半分になると、体感の広さは面積以上に縮む。
収納: 「ない」前提の設計
東京のマンションには、各部屋にクローゼット、玄関に靴箱、洗面所に収納棚が標準装備されている。50㎡の物件で収納面積が4〜6㎡確保されているのは珍しくない。
香港では、ビルトインの収納がほぼないか、あっても最小限という物件が大半だ。理由はシンプルで、1㎡あたりの家賃が高いため、収納に面積を使うのは「もったいない」。
その結果、入居者は家具で収納を作ることになる。50㎡のうち5〜8㎡がタンス・棚・ラックに取られると、実質的な使える面積は42〜45㎡に縮む。
東京の50㎡が収納込みで50㎡使えるのに対し、香港の50㎡は後付け収納を差し引くと実質42〜45㎡になる。
共用部という「見えない面積」
香港の物件広告に出てくる面積は、GFA(Gross Floor Area)であることが多い。これは専有面積に加えて、廊下・エレベーターホール・階段室などの共用部分の按分面積を含む。
2013年に香港政府が「SFA(Saleable Floor Area=使用可能面積)」の表示を義務化したが、古い物件や一部の不動産情報では今もGFAが使われている。
GFAとSFAの差は物件によるが、15〜25%の乖離がある。つまり、「GFA 50㎡」の物件はSFAでは37.5〜42.5㎡かもしれない。
東京のマンションは専有面積(壁芯面積)で表示される。壁芯と内法(実面積)の差は5〜8%程度で、香港のGFA/SFA乖離よりはるかに小さい。
日照とビル間距離
香港の住宅密度は世界で最も高い部類に入る。ビル間の距離が極端に短く、向かいのビルの壁が窓の正面にあるケースが珍しくない。
実際の物件で見ると、九龍半島の旺角・深水埗エリアでは、ビル間距離が3〜5mという物件が存在する。窓を開けても向かいの壁しか見えない。直射日光が入る時間は1日1〜2時間程度。
東京の50㎡マンションで同等の日照条件になるのは、密集した木造住宅街の1階くらいだ。東京ではマンションの日照権が建築基準法で保護されており、北側斜線制限や日影規制でビル間の最低距離が確保されている。
香港にも建築条例があるが、人口密度と土地の制約から、東京よりもはるかに密集した配置が許容されている。
家賃: 同じ50㎡で何が起きるか
2025年時点の家賃比較(40〜60㎡帯)。
| エリア | 家賃(月額) | 日本円換算 |
|---|---|---|
| 香港島・中環付近 | HKD 25,000〜40,000 | 500,000〜800,000円 |
| 九龍・尖沙咀付近 | HKD 18,000〜28,000 | 360,000〜560,000円 |
| 新界・沙田付近 | HKD 12,000〜18,000 | 240,000〜360,000円 |
| 東京・港区 | — | 200,000〜350,000円 |
| 東京・世田谷区 | — | 130,000〜200,000円 |
香港島の50㎡に月50〜80万円を払い、天井高は同等、間口は狭く、収納はなく、日照は限定的。東京の港区で35万円を払えば、収納あり、日照あり、間口も広い50㎡が手に入る。
「50㎡」という数字で比較してはいけない理由
香港と東京の50㎡を比較するときに注意すべきことをまとめる。
- 面積の定義が違う: GFA表示なら実質37〜42㎡かもしれない。SFA表示を確認する
- 収納が別枠: ビルトイン収納がない分、家具で4〜8㎡取られる
- 間口と日照を確認する: 内見時に窓面の方角とビル間距離を実際に見る
- 共用部の質を見る: 香港のコンドタイプ物件はクラブハウス・プール・ジムが充実しているケースがある。専有面積が小さくても共用部で補える設計
香港の50㎡は、東京の40㎡程度の体感だと思っておくと、現実との差が小さくなる。物件探しの際は、数字ではなく実際に空間を体感してから判断した方がいい。