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香港がいまだに竹の足場を使う合理的な理由

世界の大都市で竹の足場(棚架)を使い続けているのは香港だけだ。非効率に見えるこの技術が、台風・高層ビル・コストの三重制約のなかで最適解であり続けている理由。

2026-05-18
香港竹足場建設技術都市

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香港のビルの外壁に竹が組み上がっている光景を初めて見たとき、冗談かと思った。30階建てのビルの外壁を、竹の棒とナイロンロープで覆っている。2026年の話だ。

世界中で鉄パイプやアルミ合金の足場が標準になっているのに、香港だけが竹を使い続けている。遅れているのではない。選んでいるのだ。

竹が鉄に勝つ3つの条件

1. 軽さ 竹の足場材1本の重量は約5〜7kg。鋼管足場は同じ長さで15〜20kg。ビルの外壁に足場をかけるとき、この重量差は作業効率に直結する。40階のビルに足場を運び上げるとき、竹なら人力で持ち上がる。

2. 柔軟性 竹は風を受けるとしなる。鉄は風を受けると固定点に応力が集中する。台風(シグナル8以上)が年に数回直撃する香港では、この柔軟性が構造的な強みになる。台風時に竹足場が「揺れているが崩壊しない」光景は、竹の弾性が設計に組み込まれている証拠だ。

3. コスト 竹足場の設置コストは鉄パイプ足場の約3分の1とされる。材料費が安いだけでなく、設置・解体のスピードが速い。熟練の竹足場職人(棚架工人)は1日で10階分の足場を組み上げることができる。

竹足場職人——消えゆく技能

竹足場は設計図なしで組まれる。職人が現場を見て、ビルの形状に合わせて竹を切り、ナイロンロープで結束していく。この技能は師匠から弟子への徒弟制度で伝承されてきた。

2014年に香港の竹足場技術はユネスコの無形文化遺産の候補リストに掲載された。だが新しい職人のなり手は減少傾向にある。肉体的にきつく、高所作業のリスクが高い。若い世代はオフィスワークを選ぶ。

竹足場職人の日当はHKD 2,000〜3,000(約40,000〜60,000円)と、建設業のなかでは高い方だ。だが高齢化は止まらない。

規制と安全性

香港の建設安全条例では、竹足場も鉄パイプ足場と同等の安全基準を満たす必要がある。労工処(労働局)が定期的に検査を行い、基準を満たさない足場には即時撤去命令が出る。

竹足場の事故率は鉄パイプ足場と大差ないとされているが、これは「熟練職人が組んだ場合」の話だ。技能の継承が途絶えたとき、竹足場の安全性は担保できなくなる。

いつまで竹を使い続けるのか

高層ビルの新築工事では、すでに鉄パイプ足場やゴンドラ(吊り足場)の使用が増えている。竹足場が主に使われるのは、既存ビルの外壁改修やエアコン設置工事など、比較的小規模な工事だ。

20年後に竹足場が香港から消えている可能性は十分ある。だが2026年の今、この都市はまだ竹で超高層ビルを覆っている。素材が古いか新しいかではなく、条件に合っているかどうかが技術選択の基準だ。香港の竹足場は、その最も鮮やかな実例のひとつだ。

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