消えゆく点心カート——香港飲茶の「カート式」が絶滅危機にある理由
かつての香港の酒楼(ジャウラウ)では、おばちゃんがカートを押して点心を運んでくれた。そのカート式が急速に消えている。電子注文への移行が何を変えたか。
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「蝦餃!」「腸粉!」——かつての香港の酒楼(ジャウラウ、広東料理レストラン)では、大きなカートを押しながら「何がいる?」と聞くおばちゃんがいた。カートには蒸籠(セイロン)が積み重なり、何が入っているかは開けてみるまでわからない。
この「カート式飲茶(推車飲茶、テイチェーヤムチャ)」が急速に消えている。
カートが消えた理由
2010年代以降、香港の飲茶店は「紙の注文票(點心紙)」やタブレット端末による注文システムへの移行が進んだ。カート式から切り替えた理由はいくつかある。
人件費の高騰: カートを押す専任スタッフの人件費が上昇し、維持コストが重くなった。
食品衛生管理: オープンカートで料理を巡回させることへの衛生上の懸念が厳しくなった。
注文効率: カートが来るまで待つより、注文票を提出すれば確実に届くほうが効率的だという評価。
カート式が持っていた価値
カート式の飲茶には、注文票にない価値があった。おばちゃんと交わす一言の会話、想定外の一品との出会い、目で見て「あれ」と指差す楽しさ——全て注文票では再現できない体験だ。
老客(常連)はおばちゃんと顔見知りになり、好みを覚えてもらう関係ができていた。飲茶は食事より「人との関係」の場としての機能を持っていたとも言える。
まだカート式が残る場所
2026年時点でも香港島の一部の老舗酒楼ではカート式を維持している(推定)。觀塘(クントン)や深水埗(サムスイポー)の古い地域にも残存する。
「カート式を体験したい」なら、事前に電話で確認することを勧める。消えつつある文化を、偶然に任せず意識して体験しにいくのが、今の香港ならではのスタンスだ。