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文化・社会

エッグタルトはポルトガル料理か広東料理か——起源論争と香港スイーツ文化の形成

香港を代表するスイーツ、エッグタルト(蛋撻)の起源をめぐるポルトガル・広州・香港の三角関係。マカオ経由で伝わった説と、広州茶楼で独自発展した説、2つの系統が香港でどう合流したかを解説。

2026-04-12
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この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。

香港のエッグタルト(蛋撻、ダンタット)は1個HKD 8〜15(約160〜300円)で、街中のベーカリーや茶餐廳でどこでも手に入る。観光客が「香港に来たら食べるもの」として位置付け、在住者が「小腹が空いたときの定番」として日常的に手を伸ばす。

ところが、これをポルトガル料理の末裔と呼ぶべきか、広東料理の独自発展と呼ぶべきかは、食文化研究者の間でも意見が分かれる。

2つの系統

エッグタルトには現在も2種類の生地がある。

種類生地食感発祥とされる系統
パイ生地(酥皮)タイプ層になったパイ生地サクサク・ホロホロ広州茶楼系
クッキー生地(牛油)タイプ密なバタークッキー生地硬め・甘い香港ベーカリー系

パイ生地タイプは広州の茶楼(飲茶の店)が発展させたとされ、クッキー生地タイプは香港のベーカリーが独自に作り上げたとされる。

ポルトガルとの接点

ポルトガルにはパスティス・デ・ナタ(Pastéis de Nata)というカスタードタルトがある。リスボン発祥で、エッグと生クリームを使ったクリーミーなカスタードを薄いパイ生地に流し込む。見た目は香港のエッグタルトに酷似している。

マカオはポルトガル植民地だった歴史を持つ(1999年まで)。そこで生まれた「マカオ式エッグタルト」は、パスティス・デ・ナタに近いカスタードと、香港式の生地を組み合わせたハイブリッドだ。1990年代に「アンドリュー・エッグタルト」(安德魯餅店)が広めたこのスタイルは、現在もマカオ・香港両地で人気がある。

ただし「広東料理のエッグタルトがマカオ経由のポルトガル菓子から生まれた」という一方向の話ではない。広州の茶楼でのパイ生地タルトの記録は、香港・マカオへのポルトガル影響が強くなる以前から存在するとも言われる。

香港式の独自性

現在の香港スタイルのエッグタルトは、どちらの系統からも少しずつ距離を置いた独自の位置にある。

  • カスタードはポルトガル式より硬め・甘さ控えめ
  • 生地は广州パイ生地より均一
  • 温度は「焼きたて熱々」にこだわりがある(冷めたものは下扱い)

老鋪茶餐廳では今も午前10時前後に焼きたてを出すため行列ができる。タイミングを外すと「もう終わり」と言われることがある。

飲茶との関係

エッグタルトは飲茶(ヤムチャ)の点心メニューの1つだ。飲茶は広東の茶楼文化が起源で、香港では週末の家族の外食として根付いている。

週末の朝9〜11時、茶楼は家族連れで満席になる。エッグタルトは甘い点心として食事の締めに出てくるか、子供が最初に取るかのどちらかだ。

起源がポルトガルであれ広州であれ、エッグタルトが「香港の食事文化に埋め込まれた菓子」であることは今や疑いようがない。食の歴史はどこかで誰かが作ったものが、別の場所で別の意味を持つようになる過程の連続だ。

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