香港の電力の80%は輸入——小さな都市が抱えるエネルギー安全保障の現実
香港の電力供給の約80%が中国本土からの輸入に依存している構造を解説。CLP・HK Electricの二社独占、電力料金の仕組み、停電リスク、再エネ導入の現状まで在住者向けに整理。
この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(HKD)の金額を基準にしてください。
香港に住んでいて停電を経験したことがある人は少ないだろう。しかし、この安定した電力供給の裏側には意外な構造がある。香港で使われる電力の約80%は、中国・広東省の大亜湾原子力発電所と深圳の火力発電所から送られてくる。
東京23区より小さい面積に700万人が暮らすこの都市は、自前の発電能力だけでは需要を賄えない。
二社独占という特殊構造
香港の電力は、CLP Power(中電)とHK Electric(港灯)の2社がほぼ完全に市場を分け合っている。九龍・新界側がCLP、香港島側がHK Electric。住む場所によって電力会社が決まり、消費者に選択権はない。
両社とも政府との「管制計画協議(Scheme of Control Agreement)」に基づいて運営されており、固定資産に対して一定のリターン(許容利潤率)が保証されている。2024年以降の許容利潤率は8%。インフラ投資に対して確実に利益が出る構造だ。
電気料金は東京より安い——が、体感は違う
1kWhあたりの電力料金はHKD 1.2〜1.5(約24〜30円)前後。東京の平均(約30〜35円/kWh)と比べるとやや安い。
ただし、香港のマンションは24時間エアコンを回さないと夏場は室内温度が35度を超える。5月から10月までの約半年間、月々の電気代はHKD 800〜1,500(約16,000〜30,000円)になることも珍しくない。冬場はHKD 200〜400(約4,000〜8,000円)程度まで下がるため、季節差が大きい。
大亜湾原発という「見えない隣人」
香港の北東わずか50kmに位置する大亜湾原子力発電所は、発電量の約70%を香港に供給している。1994年の稼働開始以来、重大事故は報告されていないが、香港市民の間では常に議論の対象だ。
福島原発事故後、香港では反原発デモが起きたが、代替電源の確保が困難なため依存構造は変わっていない。再生可能エネルギーの導入目標は2035年までに全体の7.5〜10%。平地がほとんどない香港で太陽光パネルを大量設置する余地は限られる。
在住者が知っておくべきこと
台風シグナル8が発令されても停電はほぼ起きない。香港の送電網は地中化率が高く、架空線による断線リスクが低いためだ。ただし、古い建物では配電盤の老朽化による局所的な停電がまれにある。
電気代の支払いはCLP・HK Electricともにオンラインアカウントを作れば自動引き落としに設定できる。引っ越し時の開通手続きは通常2〜3営業日で完了する。
エネルギーの自給率がほぼゼロという事実は、香港という都市の本質を映している。金融もモノも電力も、外から調達して付加価値をつけて回す。インフラの安定は、見えないところで政治的な交渉の上に成り立っている。