香港の75%は「山」である——超高密度都市の裏側に広がる緑
世界で最も人口密度が高い都市のひとつである香港。だがその面積の約75%は開発されていない自然地帯だ。MTRで30分移動すると、そこは原生林のようなトレイルが広がる別世界になる。
この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(HKD)の金額を基準にしてください。
香港の面積は約1,106平方キロメートル。東京23区(約628平方キロ)の約1.8倍ある。にもかかわらず、人口が集中しているのは全体の25%程度の土地だ。残りの75%は山、森、海岸、湿地——開発されていない自然が占めている。
摩天楼のイメージが強い香港だが、実態は「山の合間に都市がある」方が正確だ。
カントリーパークという制度
香港には24のカントリーパーク(郊野公園)と22の特別地域がある。これらは合計で香港の面積の約40%をカバーしている(漁農自然護理署データ)。
カントリーパーク制度は1976年に始まった。この年は香港の人口が急増し、開発圧力が最も高かった時期だ。その最中に政府が面積の4割を「開発しない」と決めたことは、今から振り返ると驚くべき判断だった。
都市からの距離がゼロ
香港のハイキングが独特なのは、トレイルヘッド(登山口)への到達時間が極端に短いことだ。
- ドラゴンズバック(龍脊): MTR筲箕湾駅からバスで15分
- ライオンロック(獅子山): MTR黄大仙駅から徒歩30分で登山口
- ランタオピーク(鳳凰山): MTR東涌駅からバスで40分
東京なら高尾山に行くのに1時間以上かかるが、香港では都心から30分以内にトレイルに立てる。この「距離ゼロの自然」が、香港の住民にとってハイキングを日常的なレクリエーションにしている。
マクリホース・トレイル——100kmの縦走路
香港で最も有名なロングトレイルがマクリホース・トレイル(麥理浩徑)。全長100km、10セクションに分かれており、西貢半島の東端から屯門まで新界を横断する。
ナショナルジオグラフィックが「世界のベストハイキングトレイル20選」に選んだこともある。セクション2(西灣〜赤徑)はビーチと山が交互に現れるルートで、香港にいることを忘れる風景が広がる。
週末の習慣としてのハイキング
香港のハイキング人口は多い。環境保護署の統計では、年間延べ約1,300万人がカントリーパークを訪れている。人口約750万人の都市で、延べ1,300万人だ。一人あたり年2回近くカントリーパークに行っている計算になる。
理由のひとつは住環境だ。香港の住居は狭い。週末に「広い場所」に出たいという欲求が、無料で入れるカントリーパークに向かわせる。ゴルフ場は高すぎる(ビジター料金HKD 2,000以上、約40,000円以上)。ハイキングはMTRの運賃だけで成立する。
開発圧力との攻防
住宅不足が深刻な香港では、カントリーパークの一部を開発に充てるべきだという議論が定期的に浮上する。2017年には政府のタスクフォースがカントリーパークの縁辺部の開発を検討したが、世論の強い反発を受けて撤回された。
「住む場所がない」と「自然を守る」が、限られた面積のなかで真正面からぶつかる。この緊張関係は、香港という都市の本質的なジレンマだ。
超高密度の都市と手つかずの自然が、文字通り数百メートルの距離で隣接している。この落差が香港の景観と生活の両方を形作っている。