香港の斜面には一つずつ番号が振られている
山を削って作られた街は、斜面の崩落と常に隣り合っている。数万の人工斜面を個別に登録・点検する制度が、この都市を支えている。
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香港の山道や道路脇を歩いていると、コンクリートの擁壁に小さな番号のプレートが取り付けられているのに気づくことがある。目立たない金属板に、記号と数字が並んでいる。
あれは装飾ではない。人工斜面の登録番号だ。この都市は、自分が作った斜面を一つずつ台帳に載せて管理している。
山を削って街を作った代償
香港の平地は限られている。市街地を広げるには、海を埋め立てるか、山を削るしかなかった。実際にはその両方が行われた。
山を削れば、切り取られた面が残る。自然の斜面は長い時間をかけて安定した角度に落ち着いているが、人が削った面はそうではない。急な角度のまま、雨を待つことになる。
亜熱帯の豪雨と、人工的に急にされた斜面。この組み合わせは、崩落という結果を導く。実際に、過去には深刻な被害を伴う土砂災害が起きてきた。同じ雨に対して市街地側では地下トンネルで水を逃がしているが、斜面そのものの安定は別の問題として残る。
災害が制度を作った
大きな被害を経験した後、香港では斜面の安全に関する専門的な体制が整備されていった。土木工程拓展署(Civil Engineering and Development Department)の下に置かれた土力工程處(Geotechnical Engineering Office)が、その中心を担っている。
やっていることは地味だ。人工斜面を洗い出し、番号を振り、台帳を作り、点検し、必要なら補強する。派手さのない作業を、何十年も続けている。
膨大な数の斜面が登録され、優先度をつけて順次対策が進められてきた。一度に全部やることはできないので、危険度と影響の大きさで順番を決める。トリアージの発想だ。
番号を振るという行為の意味
管理の第一歩は、対象を数えることだ。数えられないものは管理できない。斜面に番号を振るという作業は、「山」という漠然とした自然物を、管理可能な個別の対象に変換する行為だった。
これは在庫管理や設備管理と同じ思想だ。工場の機械に番号を振り、点検記録を紐づける。それを都市の地形に対して行った。
自然を管理対象として台帳化する。かなり大胆な発想だが、それをやらなければこの密度の都市は斜面の上に成立しない。
豪雨と土砂の警報
雨が降り続くと、土砂災害の危険が高まる。香港では豪雨の警報とは別に、土砂崩れに関する警報が出される仕組みがある。
斜面に近い場所に住んでいる人、山道を歩く予定がある人にとって、この警報は実際的な意味を持つ。警報が出ている間のハイキングは避ける、というのは、この街では一般的な認識になっている。市街地からトレイルが近いぶん、軽い気持ちで入ってしまいやすいのが、この街の落とし穴だ。
9月から10月にかけても台風の接近はありうる。雨のピークが夏だけで終わるとは限らない。
住まいを選ぶときに見えること
斜面の直下や直上にある建物は、当然ながらこのリスクに近い。とはいえ、香港では多くの建物が何らかの形で斜面と関係しているので、完全に避けるのは難しい。
現実的にできるのは、その斜面が管理された人工斜面かどうか、補強工事の形跡があるかを見ることくらいだろう。番号プレートが付いていて、コンクリートや土留めが施されているなら、少なくとも台帳に載っている。内見のときに窓から見える斜面を一度眺めておく、という程度の確認は物件選びの実務に組み込める。
管理されていることと、絶対に安全であることは違う。それでも、把握されているかどうかの差は大きい。
こういう見方もできる
香港の斜面管理は、都市が自然に対して取った態度を示している。避けるのではなく、削って、番号を振って、管理する。従うのではなく、制御しようとする。
この態度は成功もしたし、代償も伴った。斜面が崩れて人が亡くなる事故が起きて初めて、制度が整えられていった。今の安全は、過去の失敗の上に建っている。
同じ思想は緑地の側にも及んでいる。郊野公園として囲い込まれた山も、放置された自然ではなく、線を引いて管理されている領域だ。削る山と、守る山。どちらも台帳の上にある。
擁壁の番号プレートは、そのことの記録だ。目立たない金属板の一枚一枚が、この街が自然とどう折り合いをつけてきたかを示している。次に山道で見かけたら、少し立ち止まって見てみる価値がある。