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九龍城にタイ人街がある理由は、空港の騒音だった

旧啓徳空港のすぐ隣にあった九龍城は、飛行機の騒音で家賃が安かった。そこにタイ人が集まり、香港最大のタイ人コミュニティが生まれた。空港が移転した今も、タイ料理の街は残っている。

2026-05-08
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九龍城(カオルンシティ)のタイ料理レストランの密度は異常だ。衙前圍道(Nga Tsin Wai Road)から城南道(South Wall Road)にかけての数ブロックに、30軒以上のタイ料理店が並んでいる。香港にはタイ人が約10,000〜15,000人暮らしているとされるが、その多くが九龍城周辺に集中している。

なぜこの場所にタイ人が集まったのか。答えは頭上にある——かつて頭上にあったもの、正確には。

啓徳空港と騒音

1998年まで香港の玄関口だった啓徳空港(カイタック空港)は、世界で最も危険な空港の1つとして知られていた。滑走路が九龍半島の住宅密集地に突き出しており、着陸する飛行機が高層ビルの屋上をかすめるように降下した。

九龍城は啓徳空港のすぐ北側に位置していた。ジャンボジェットが数分おきに頭上を通過する環境で、騒音は凄まじかった。窓を閉めても会話が中断されるレベルの騒音が日常だった。

結果として、九龍城の家賃は周辺エリアに比べて大幅に安かった。1980年代〜90年代、九龍城の家賃は隣接する九龍塘(Kowloon Tong)や土瓜湾(To Kwa Wan)の半額以下だったとされる。

安い家賃とタイ人コミュニティ

1970年代〜80年代、香港にはタイからの移民労働者が増加した。家事労働者(メイド)、建設作業員、飲食業の労働者。彼らが住居を探す際、家賃の安い九龍城に集中した。

最初の数家族が九龍城に住み始めると、タイの食材を扱う店ができる。タイ料理のレストランが開く。寺院ができる。タイ語で情報が回り始め、新しく来たタイ人がまた九龍城に住む。エスニック・エンクレーブ(民族集住地区)の形成パターンだ。

九龍城には「九龍城泰佛寺」というタイ仏教の寺院がある。ソンクラーン(タイの水かけ祭り)の時期には、この周辺でタイ人コミュニティの祭りが開催される。

空港移転後の九龍城

1998年、啓徳空港は閉鎖され、新しいチェクラップコク空港(赤鱲角機場)に移転した。九龍城の頭上から飛行機が消えた。

騒音がなくなると、家賃は上昇し始めた。再開発が進み、旧空港跡地は「啓徳発展区」として大規模な住宅・商業・文化施設の建設が進んでいる。

だが、タイ人コミュニティとタイ料理の街は残った。30年以上かけて形成されたコミュニティのインフラ——食材の仕入れルート、顧客基盤、人的ネットワーク——は空港が移転しても簡単には消えない。

ただし変化は起きている。家賃上昇で閉店するタイ料理店もあり、代わりに新しいカフェやリノベーション物件が増えている。九龍城は「ジェントリフィケーション(高級化)」の途中にある。

九龍城のタイ料理

九龍城のタイ料理は、バンコクで食べるものと同水準——場合によってはそれ以上——だと評される。食材をタイから直接輸入している店が多く、バンコクの市場と同じスパイスやハーブが使われている。

代表的な店と価格帯。

料理価格帯日本円
パッタイHKD 55〜801,100〜1,600円
グリーンカレーHKD 70〜1001,400〜2,000円
トムヤムクンHKD 80〜1201,600〜2,400円
カオマンガイHKD 50〜701,000〜1,400円
マンゴースティッキーライスHKD 40〜60800〜1,200円

香港の物価を考えると、タイ料理は比較的リーズナブルだ。中環や尖沙咀の高級タイ料理店では同じメニューが1.5〜2倍の価格になる。

九龍城寨の記憶

九龍城にはもう1つの歴史がある。九龍城寨(Kowloon Walled City)だ。

かつて世界最大のスラムとして知られた九龍城寨は、面積わずか2.7ヘクタール(ほぼ野球場2面分)に約33,000人が暮らしていた。人口密度は1㎢あたり約120万人。人類史上最も密集した居住空間とされる。

1993年に取り壊され、跡地は九龍寨城公園として整備されている。公園内には城壁の遺構や、当時の生活を再現した展示がある。入場無料。

タイ人街と九龍城寨の記憶——九龍城は、空港の騒音が作り出した「安い空間」に、異なるコミュニティが重なり合って形成された街だ。その空間の歴史を知ると、タイ料理の味がまた少し違って感じられる。

アクセス

九龍城へはMTR宋皇臺駅(Sung Wong Toi Station、屯馬線)が最寄り。2021年に開業した比較的新しい駅で、駅から衙前圍道のタイ料理エリアまで徒歩5分程度。

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