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明日大嶼は、香港の最後の大型埋立計画だ

ランタオ島沖に人工島を造成して26万戸の住宅を建設する「明日大嶼(Lantau Tomorrow Vision)」。総工費6,240億HKD、完成は2030年代後半。香港の住宅問題を解決する切り札か、財政の時限爆弾か。

2026-05-08
香港明日大嶼埋立住宅問題都市計画大型開発

この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(HKD)の金額を基準にしてください。

香港の住宅価格は、世界で最も高い部類に入る。50㎡のマンションが1億円を超える地域はザラで、家賃も東京の2〜3倍。この問題の根本原因は土地の供給不足だ。香港の面積1,114㎢のうち、住宅地として開発されているのは約7%にすぎない。

「明日大嶼願景(Lantau Tomorrow Vision)」は、この土地不足を海の上で解決しようとする計画だ。

計画の概要

2018年に当時の行政長官・林鄭月娥(キャリー・ラム)が施政方針演説で発表した。ランタオ島(大嶼山)の東側海域、交椅洲(Kau Yi Chau)付近に約1,000ヘクタール(東京ディズニーランド約20個分)の人工島を造成する。

主要な数字。

項目数値
造成面積約1,000ヘクタール
住宅戸数約150,000〜260,000戸
うち公営住宅比率約70%
推定居住人口40万〜70万人
総工費(政府推計)HKD 5,800億〜6,240億(約11.6兆〜12.5兆円)
第1期完成予定2033年頃
全体完成予定2030年代後半〜2040年代

規模としては、東京の臨海副都心(お台場周辺、約442ヘクタール)の2倍以上になる。

なぜ埋め立てなのか

香港には土地供給の選択肢が3つある。郊外緑地(カントリーパーク、面積の約40%)の開発は環境保護の観点で反対が強い。旧市街の再開発は立ち退き交渉に時間がかかり面積も限定的。3つ目が埋め立てで、中環のIFCビルが建つ場所もセントラルフェリーピア周辺もすべて埋立地だ。香港は歴史的に海を埋めて土地を作ってきた街で、明日大嶼はその延長線上にある。

賛否の構造

賛成派は公営住宅の供給不足(公屋の平均待ち時間6年以上)を訴え、埋立地なら政府所有の安価な土地を大量供給できると主張する。反対派はHKD 6,000億超の費用が財政準備金(約HKD 7,000億〜8,000億)の大部分を消費する点、海面上昇リスク、中華白イルカ(Chinese White Dolphin)の生息地への影響、そして2030年代後半の完成では今の住宅危機に間に合わない点を指摘する。

最大の争点は費用だ。政府は土地売却でHKD 7,500億〜10,000億を回収できるとするが、この推計は現在の不動産市場が前提。2022年以降、香港の不動産市場は取引量・価格ともに下落傾向にあり、2030年代の市場価格は誰にも予測できない。

進捗と見通し

2023年に環境影響評価が提出され2024年に承認。工事は3フェーズ——第1期・交椅洲東(約300ヘクタール、2033年頃に住宅供給開始)、第2期・交椅洲西(約400ヘクタール)、第3期・喜靈洲付近(約300ヘクタール)。第1期だけで8年以上の工期が見込まれている。

香港に住む日本人として

明日大嶼は、香港に住む日本人にとっても無関係ではない。もし計画が実現すれば、2030年代後半以降に新しい住宅地が供給され、家賃相場に影響を与える可能性がある。

逆に計画が縮小・中止になれば、香港の住宅供給不足は続き、家賃は高止まりする。

現時点で確定しているのは、「この計画は大きすぎて、実現しても10年以上かかる」ということだけだ。香港の住宅問題は、海を埋めても簡単には解決しない。

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