明日大嶼は、香港の最後の大型埋立計画だ
ランタオ島沖に人工島を造成して26万戸の住宅を建設する「明日大嶼(Lantau Tomorrow Vision)」。総工費6,240億HKD、完成は2030年代後半。香港の住宅問題を解決する切り札か、財政の時限爆弾か。
この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(HKD)の金額を基準にしてください。
香港の住宅価格は、世界で最も高い部類に入る。50㎡のマンションが1億円を超える地域はザラで、家賃も東京の2〜3倍。この問題の根本原因は土地の供給不足だ。香港の面積1,114㎢のうち、住宅地として開発されているのは約7%にすぎない。
「明日大嶼願景(Lantau Tomorrow Vision)」は、この土地不足を海の上で解決しようとする計画だ。
計画の概要
2018年に当時の行政長官・林鄭月娥(キャリー・ラム)が施政方針演説で発表した。ランタオ島(大嶼山)の東側海域、交椅洲(Kau Yi Chau)付近に約1,000ヘクタール(東京ディズニーランド約20個分)の人工島を造成する。
主要な数字。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 造成面積 | 約1,000ヘクタール |
| 住宅戸数 | 約150,000〜260,000戸 |
| うち公営住宅比率 | 約70% |
| 推定居住人口 | 40万〜70万人 |
| 総工費(政府推計) | HKD 5,800億〜6,240億(約11.6兆〜12.5兆円) |
| 第1期完成予定 | 2033年頃 |
| 全体完成予定 | 2030年代後半〜2040年代 |
規模としては、東京の臨海副都心(お台場周辺、約442ヘクタール)の2倍以上になる。
なぜ埋め立てなのか
香港には土地供給の選択肢が3つある。郊外緑地(カントリーパーク、面積の約40%)の開発は環境保護の観点で反対が強い。旧市街の再開発は立ち退き交渉に時間がかかり面積も限定的。3つ目が埋め立てで、中環のIFCビルが建つ場所もセントラルフェリーピア周辺もすべて埋立地だ。香港は歴史的に海を埋めて土地を作ってきた街で、明日大嶼はその延長線上にある。
賛否の構造
賛成派は公営住宅の供給不足(公屋の平均待ち時間6年以上)を訴え、埋立地なら政府所有の安価な土地を大量供給できると主張する。反対派はHKD 6,000億超の費用が財政準備金(約HKD 7,000億〜8,000億)の大部分を消費する点、海面上昇リスク、中華白イルカ(Chinese White Dolphin)の生息地への影響、そして2030年代後半の完成では今の住宅危機に間に合わない点を指摘する。
最大の争点は費用だ。政府は土地売却でHKD 7,500億〜10,000億を回収できるとするが、この推計は現在の不動産市場が前提。2022年以降、香港の不動産市場は取引量・価格ともに下落傾向にあり、2030年代の市場価格は誰にも予測できない。
進捗と見通し
2023年に環境影響評価が提出され2024年に承認。工事は3フェーズ——第1期・交椅洲東(約300ヘクタール、2033年頃に住宅供給開始)、第2期・交椅洲西(約400ヘクタール)、第3期・喜靈洲付近(約300ヘクタール)。第1期だけで8年以上の工期が見込まれている。
香港に住む日本人として
明日大嶼は、香港に住む日本人にとっても無関係ではない。もし計画が実現すれば、2030年代後半以降に新しい住宅地が供給され、家賃相場に影響を与える可能性がある。
逆に計画が縮小・中止になれば、香港の住宅供給不足は続き、家賃は高止まりする。
現時点で確定しているのは、「この計画は大きすぎて、実現しても10年以上かかる」ということだけだ。香港の住宅問題は、海を埋めても簡単には解決しない。