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医療・健康

香港に漢方薬局が多い理由——西洋医学と中医学が共存する医療の二層構造

香港の街を歩くと、薬局と並んで漢方薬局(中藥舖)が多く目に入る。西洋医学と中医学が制度的に並立する香港の医療システムの仕組みと、在住日本人にとっての実用的な使い方を解説。

2026-04-12
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この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。

香港の街を歩くと、数ブロックごとに「中藥舖」(ジョンヨクポウ)と書かれた店が目に入る。乾燥した薬草・漢方食材・動物性生薬が棚に並び、白衣の店員が秤で量って袋に詰める。観光客の目には「異国情緒のある光景」に映るが、これは香港人の日常医療の一部だ。

制度的な二層構造

香港の医療制度は西洋医学と中医学(Traditional Chinese Medicine、TCM)を並立させている。

2000年に制定された「中醫藥條例」(Chinese Medicine Ordinance)により、中医(中医師)は政府公認の資格として正式に定められた。中医師になるには指定大学での学位取得と登録試験の合格が必要で、日本の鍼灸師や漢方医とは異なる法的地位にある。

中医師は問診・脈診・処方を行うが、西洋医学的な検査(血液検査・画像診断等)は単独では行えない。逆に西洋医学の医師(西醫)は中医的処方を行わない。二つのシステムが完全に分離されて並立している。

なぜ薬局が多いか

中藥舖の多さには複数の理由がある。

歴史的蓄積: 香港が英国植民地だった時代も、広東系中国人住民の間で中医学は日常的な医療だった。官製医療(公立病院)は西洋医学だったが、日常の養生・季節の不調は中医に頼る文化が続いた。

製薬規制の緩さ: 漢方薬(中薬)は「薬」ではなく「食品」に近い扱いを受けるケースがあり、処方箋なしに購入できる製品が多い。参茸海味(高麗人参・鹿茸・海産物の乾物)を扱う店も生薬の一部として機能する。

養生文化: 「未病を防ぐ」という予防的健康観が香港人の間に根付いている。季節の変わり目に「涼茶(ひんやりした漢方茶)」を飲む・夏場に「清熱」効果があるとされる食材を使う、といった食養生の習慣が日常の一部だ。

涼茶舗(リョンチャポウ)

漢方薬局とは別に、「涼茶舗」(清涼感のある漢方茶の店)が香港にはある。二十四味(24種の漢方素材を煎じた苦い茶)・菊花茶・羅漢果茶等を店頭で提供する。1杯HKD 6〜15(約120〜300円)程度。

香港人は「身体に熱が籠もったとき(身体の不調・のぼせ・口内炎・便秘等)」に涼茶を飲む習慣を持つ。製品によっては非常に苦く、慣れていない人には飲みにくいが、「なんとなく身体によさそうなもの」として日常的に消費されている。

在住日本人の使い方

西洋医学の医師に行くほどではないが、なんとなく体調が優れない——そういうシーンで漢方薬局や涼茶舗が選択肢になる。

ただし注意点がある。中藥舗の店員は必ずしも中医師の資格を持っていない。重篤な症状や慢性疾患は、きちんと登録中医師の診断を受けることが必要だ。中医師の初診費はHKD 200〜400(約4,000〜8,000円)程度。

一方、軽いのどの痛み・消化不良・疲労感程度であれば、涼茶舗で一杯飲んで様子を見るのは香港人の日常的な対処法と同じだ。住んでいると次第にこの感覚が自然になる。

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