香港の新聞が消えていく——メディア地殻変動と「何を読むか」問題
Apple Daily廃刊以降の香港メディア環境の変化を解説。新聞・テレビ・ネットメディアの現状、在住日本人が信頼できる情報源の選び方、言論の自由の現実まで。
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2021年6月24日、Apple Daily(蘋果日報)が最終号を発行した。発行部数100万部。コンビニの前に長蛇の列ができ、朝7時には売り切れた。創業者の黎智英(ジミー・ライ)は国家安全維持法違反で収監中だ。
香港で「何を読むか」は、もはや単なる情報収集の問題ではなくなっている。
紙の新聞は5年で半分以下に
2019年時点で香港には日刊紙が十数紙あった。2026年現在、主要紙は明報、星島日報、東方日報、South China Morning Post(SCMP)など数紙に集約されつつある。
紙の発行部数は軒並み減少しており、SCMPは2018年に紙面の有料化を廃止してデジタルシフトを加速した。広告収入もデジタルに移行しているが、香港メディア全体の広告市場規模は2019年比で約30%縮小している。
在住日本人の情報源
香港在住の日本人が日常的に使う情報源は、大きく分けて3つの層がある。
英語メディア: SCMPが最も読まれている。無料記事も多く、政治・経済・社会のカバレッジが広い。Hong Kong Free Press(HKFP)は独立系の英語メディアで、寄付ベースで運営されている。
日本語メディア: NNA ASIA、香港ポスト、じゃかるた新聞(アジア全般)など。日系企業のビジネスニュースが中心で、生活情報は限定的だ。
SNS・チャットグループ: WhatsApp・Telegramの日本人コミュニティグループ、Facebookの「香港掲示板」系グループ。速報性は高いが、情報の正確性は玉石混交。学校情報や医療情報はここで流れることが多い。
テレビは何が変わったか
TVB(無綫電視)は1967年の開局以来、香港の地上波テレビを事実上独占してきた。しかし視聴率は長期低落傾向にあり、若年層のテレビ離れが進んでいる。
2020年以降、一部のニュースキャスターや記者が退職・移住し、報道のトーンが変化したと指摘する声がある。一方で、NowTVやi-CABLEなどの有料チャンネルは独自取材を続けており、完全に画一化されたわけではない。
「自己検閲」という目に見えない変化
国家安全維持法施行後、メディア関係者の間で「自己検閲」が広がっているとされる。具体的に何が書けて何が書けないのかの線引きは明確ではなく、その曖昧さ自体が萎縮効果を生んでいるという構造だ。
在住者として意識しておきたいのは、同じニュースでもメディアによって切り口が大きく異なるということ。1つのソースだけに頼らず、英語・中国語・日本語の複数メディアを横断して読む習慣が、香港では特に必要になっている。
情報を「選ぶ」ことの意味
香港の情報環境は2019年以前と2021年以降で別物だ。これは政治的な話だけではなく、メディアのビジネスモデルの崩壊、デジタルシフト、人口流出によるジャーナリストの減少が複合的に絡んでいる。
「知らなかった」では済まない場面がある都市だからこそ、情報源の多角化は生活インフラの一部だと考えておいた方がいい。