香港の高齢者貧困:世界有数の富裕都市に「段ボールおじいさん」がいる理由
香港は一人あたりGDPが高い都市だが、高齢者の貧困率はアジア有数の高さと言われる。公的年金制度の不備・超小型住居・老人ホーム不足が交差する現実を見る。
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銅鑼灣や旺角の路上で、段ボールを山積みにした手押し車を引く高齢者を見ることがある。段ボールを集めて資源回収業者に売る。1kgあたり0.5〜1HKD(10〜20円)程度。1日かけて50kgを集めれば50HKD(975円)。
これが香港という都市の一面だ。一人あたりGDPが日本を上回る都市で、なぜこの光景があるのか。
香港の高齢者貧困の構造
公的年金制度の未整備
日本には国民年金・厚生年金がある。香港に相当する制度はMPF(強制積立年金)だが、MPFが義務化されたのは2000年。それ以前に引退した高齢者はMPFの積立がない。香港政府の「総合社会保障援助計画(CSSA)」という生活保護的な制度はあるが、給付水準は高くない。
住宅コストの高さ
公共住宅(公屋)への入居待機リストは年々長くなっている。公屋に入れなかった高齢者が民間の超小型物件(劏房・cage home等)に住み続け、毎月の家賃が収入の大部分を消費する構造がある。
老人ホームの不足
香港の認定老人ホームへの入居待機は、場合によっては数年単位になる。民間の老人ホームは高額で、多くの家庭には手が届かない。
MPFは老後を支えられるか
MPFは労使折半で月収の10%を積み立てる仕組みだが、運用コストが高いという批判が長年あった。2024〜2025年の制度改革でコスト上限の引き下げが行われたが、積立年数が短い世代・収入が低かった世代の受取額は限られる。
現役世代のうちにMPFだけに頼らず、別途の資産形成が必要という認識が香港では一般的だ。
段ボール回収と「隠れた高齢労働」
段ボール回収の高齢者は「生活のため」だけではなく、「外に出る理由が欲しい」という側面もある。一人暮らしの高齢者にとって、毎日の段ボール集めは社会との接点でもある。
ただし実際には体力的な限界を超えた労働になっているケースもあり、香港社会でも長年議論の対象になっている。
香港政府の対応
香港政府は高齢者向けのケアバウチャー(介護サービス利用補助)制度を運営しており、在宅介護サービスの利用を支援している。公屋の高齢者向け優先枠も拡大されてきた。
ただし高齢化のスピードに対して制度整備が追いついていないという指摘は絶えない。
外国人が香港で老後を考えるとき
香港で長期在住・永住を考える外国人は、香港の社会保障制度の薄さを理解しておく必要がある。
MPFは2000年以降に就労した人であれば積み立てられるが、日本の年金制度との二重払い問題・受取時の課税問題などは個別に確認が必要だ。民間保険・海外口座・分散資産での備えが、香港では特に重要になる。
豊かさと貧しさが狭い面積に濃縮されているのが香港の特徴だ。高層ビルの麓で段ボールを引く高齢者の姿は、この都市の設計の矛盾を可視化している。