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香港市民の46%が公共住宅に住む——民間市場と公共市場の断絶

世界最高水準の不動産価格を持つ香港で、全市民の約46%が政府の公共住宅に住んでいる。この断絶はどのように生まれ、何を意味するのか。

2026-04-08
住宅公共住宅不動産都市政策格差

この記事の日本円換算は、1HKD≒20円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(HKD)の金額を基準にしてください。

香港は世界で最も住宅が高い都市の一つだ。50㎡のアパートが1億円を超えることは珍しくない。

ではそこに住む市民はどう暮らしているのか。答えの一つは——半数近くが政府の公共住宅に住んでいる、だ。

46%という数字

2024年のデータによると、香港市民の内訳は以下の通りだ:

  • 公共賃貸住宅(PRH):30.5%
  • 居住権補助制度住宅(HOS等補助住宅):15.6%
  • 一時住宅:0.9%
  • 民間賃貸・持ち家:残り約53%

PRHとHOSを合計すると46.1%が何らかの形で政府提供の住宅に住んでいる。人口750万人の半数近くが、公的住宅制度に組み込まれている。

これは欧州の福祉国家でも例外的な数字だ。オランダ(約30%)、オーストリア(約24%)、英国(約17%)と比べても香港の公共住宅居住率は高い。「自由市場の砦」として知られる香港で、住宅に関してはこれだけ大規模な国家介入が行われている。

なぜ公共住宅が必要になったか

香港の民間住宅市場が高騰した理由は複合的だ。

地理的制約:香港の総面積は1,110㎢で、そのうち実際に開発されているのは約24%にすぎない。残りは丘陵地・自然保護区・郊外農地で、平坦な土地の絶対量が少ない。

人口密度:市街地に限った人口密度は世界最高水準で、旺角(Mong Kok)地区では1km²あたり4万人を超える。東京都心でも1万5千人程度だ。

土地政策:香港の土地は政府所有(Crown Land)が基本で、民間への払い下げが土地収入の主要財源になっている。政府が土地供給を絞ることで地価を高く維持してきたという構造がある。

この三重の条件が、民間住宅価格を一般市民が購入できない水準まで押し上げた。

公共住宅の待機リスト

2023〜24年度の統計では、公共賃貸住宅への一般申請者の平均待機年数は5.7年だ。

申請から約6年待って、ようやく公共住宅に入居できる。その間、民間の賃貸住宅に住むか、親族の家に身を寄せるか、あるいは「劏房(トン・ファン)」と呼ばれる違法分割住宅に住むことになる。

劏房は一つのアパートを壁で区切って複数の居室に転換した住宅で、1室10〜20㎡程度の空間に家族が住む。家賃は民間市場に準じるため安くはなく、衛生・防火の問題が繰り返し報告されている。公共住宅への待機中に劏房に住む人は数十万人規模と推計されている。

HOS——「買える」住宅の設計

HOS(Home Ownership Scheme)は、市場価格の30〜40%程度の割引価格で政府が販売する分譲住宅だ。PRHの長期居住者や一定条件を満たす世帯が対象で、所得制限がある。

たとえば市場価格600万HKD(1億2,000万円)のアパートが、HOSでは420万HKD(8,400万円)で購入できる——それでも日本の感覚では十分高い。だが香港の中間層にとっては「唯一の持ち家への道」になっている。

HOS住宅は民間市場での転売に制限がある(政府への補助金返却が必要)。これによりHOS住宅が投機対象になるのを防ぐ設計だが、流動性が低下するという副作用もある。

民間市場との断絶

ここに構造的な断絶がある。

公共住宅(PRH・HOS)に住む市民と、民間市場で暮らす市民は、全く異なる住宅コスト体験をしている。PRH入居者の月額家賃はユニットサイズや収入によるが、民間市場の10〜30%程度に抑えられている。

民間で賃貸する中間層は、収入の40〜60%を家賃に使うことも珍しくない。香港の一般的な月額家賃は、九龍・新界のスタジオアパートで10,000〜18,000HKD(20〜36万円)程度だ。月収30,000HKD(60万円)の世帯が家賃に15,000HKD(30万円)を払う——この消費構造が内需を圧迫し、他の支出を制限する。

「勝ち組」の公共住宅入居者と、長年PRH申請中に民間市場に翻弄される市民の間に、政策が生んだ格差がある。

住宅は「権利」か「市場財」か

香港の公共住宅の規模は、一つの問いへの回答でもある——住まいは市場が供給すべきか、国家が保障すべきか。

香港はその問いに対して「両方」という答えを出している。市場は市場で機能させ、市場から取り残される層を公的住宅でカバーする。しかし待機期間5.7年は「カバー」とは呼べない実態を示している。

2025年以降、香港政府は北部都市開発などで住宅供給を増やす方針を示しているが、需給のバランスが変わるまでには時間がかかる。

世界最高価格の都市に住む人々の46%が公的住宅に住んでいるという事実は、市場と政策の間で何かが根本的にうまくいっていないことのサインだ。何がうまくいっていないのか——それは香港を語るうえで避けられない問いだ。

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