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香港の公共図書館が朝8時から満席になる理由

香港の公共図書館は82館。住居が狭い香港では、図書館が自宅の書斎・自習室・リビングの代替空間になっている。学生から高齢者まで、図書館を「部屋の延長」として使う街の話。

2026-05-08
香港図書館公共施設学習文化住宅事情

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土曜の朝9時、香港中央図書館(Hong Kong Central Library)の前にはすでに行列ができている。開館は9時。11階建ての建物に約2,400席の閲覧席があるが、昼前には全席が埋まる。

82館、470万冊

香港公共図書館は全港に82館(2025年時点)、蔵書は約470万冊。人口750万人に対して82館なので、約9万人に1館の割合だ。日本の公共図書館は約3,400館(人口約1.2億人)で、約3.5万人に1館。単純な比率では日本の方が図書館密度は高い。

だが、利用率が全く違う。

香港公共図書館の年間貸出冊数は約5,000万冊(康楽及文化事務署、LCSD)。人口1人あたり年間約6.7冊。日本の公共図書館の1人あたり貸出冊数は約5.5冊(日本図書館協会統計)。香港の方が1人あたりの貸出冊数が多い。

狭い住居の代替空間

香港の公共図書館が満席になる最大の理由は、住宅事情だ。

香港の1人あたり居住面積の中央値は約161平方フィート(約15㎡)(政府統計処、2021年)。劏房(サブディバイデッドフラット)に住む人は、1人あたり60〜80平方フィート(約5.5〜7.4㎡)しかない。

この面積に寝室・リビング・キッチンを詰め込む。書斎はない。勉強机を置くスペースもない。

結果として、図書館が「自宅の書斎」の代わりになる。学生は試験勉強のために毎日図書館に通い、社会人は資格試験の準備で図書館を使う。高齢者は新聞を読みにくる。エアコンが効いているのも大きな理由で、夏場は自宅より図書館のほうが快適だ。

自修室文化

香港の図書館には「自修室」(Study Room / Self-Study Centre)が併設されている館が多い。自修室は本を借りるためではなく、自分の教材を持ち込んで勉強するための空間だ。

自修室の席取り競争は激しい。特に試験シーズン(DSE=香港中学文憑試験の前、1〜3月)は早朝から行列ができる。一部の図書館は24時間開放の自修室を設置しているが、それでも席が足りない。

民間の有料自修室も増えている。月額HKD 500〜1,500(約10,000〜30,000円)で、個室デスクやWi-Fiが使える。スターバックスで勉強する層の上位版だ。

図書館での暗黙のルール

香港の図書館には、日本の図書館と似た静粛ルールがあるが、いくつか独特の慣習がある。

席取りは荷物で: 図書館の席にカバンや教科書を置いて確保し、本人は食事やトイレに行く。日本の大学図書館でも見る光景だが、香港では公共図書館でも一般的だ。一部の図書館では「30分以上の離席は荷物を撤去」という掲示がある。

飲食禁止だが: 規則上は飲食禁止だが、ペットボトルの水はほぼ黙認されている。フタ付きのカップならコーヒーも暗黙で許容されている館がある。食べ物は厳禁。

エアコンの温度: 香港の公共施設全般に言えることだが、エアコンが効きすぎている。図書館に長時間いるなら上着が必要。夏でも薄手のパーカーを持参する常連が多い。

日本人が使うには

香港の公共図書館は、香港IDカード(香港身份證)を持っていれば誰でも無料で利用登録できる。ワーキングビザや投資ビザで滞在中の日本人も登録可能。

登録には香港IDカードと住所証明(公共料金の請求書等)が必要。図書カードが即日発行され、1回に最大8冊、28日間借りられる。更新(延長)はオンラインで可能。

蔵書は広東語・英語が中心だが、日本語の書籍も一部ある。特に香港中央図書館(銅鑼湾)は日本語書籍の蔵書が比較的多い。

Wi-Fiは全館で利用可能(GovWiFi)。電源コンセントが使える席は限られるが、新しい図書館ほど電源が充実している。

図書館が教えてくれること

香港の図書館の利用率が高い理由は、教育熱心な文化だけでは説明できない。住居が狭いから外に出る。外に出た先に、無料で座れて、エアコンが効いていて、静かな空間がある。図書館は「知識の殿堂」である以前に、「居住面積の社会的補填」として機能している。

東京の図書館が空いている理由は、日本の住宅に書斎やリビングがあるからだ。香港で図書館が混む理由は、その逆だ。図書館の混み具合を見ると、その街の住宅事情が分かる。

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