香港の学校「バンディング制度」——入学前に勝負が決まる仕組み
香港の公立中学校は3つの「バンド」に分類されている。子供がどのバンドの学校に入れるかは小学校の成績で決まり、事実上の学力カースト制度として機能している。
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香港の教育制度には「バンディング(Banding)」と呼ばれる仕組みがある。公立中学校がBand 1(上位)、Band 2(中位)、Band 3(下位)に分類され、小学6年生の内申点でどのバンドに振り分けられるかが決まる。
日本でいえば、小学校の通知表だけで入れる中学校のランクが確定するようなものだ。
バンディングの仕組み
香港の小学生は5年生と6年生の成績(内部評価)と、全港的な学力テスト(Pre-Secondary One Attainment Test)の結果に基づいて3つのバンドに振り分けられる。
- Band 1: 上位約3分の1
- Band 2: 中位約3分の1
- Band 3: 下位約3分の1
学校選択(中学校配属)はバンドごとに行われる。Band 1の生徒はBand 1の学校を優先的に選べるが、Band 3の生徒がBand 1の学校に入ることは事実上不可能だ。
なぜこの制度が存在するのか
バンディングの元々の目的は「同じ学力レベルの生徒を集めることで、教師の指導を効率化する」ことだった。1978年に導入されたこの制度は、当時の香港が急増する人口と限られた教育資源のなかで考えた「最適化」の結果だ。
だが50年近く経った現在、この制度は教育格差を固定化する装置としても機能している。Band 1の学校にはリソースが集まり、Band 3の学校からの大学進学率は著しく低い。
保護者の行動を変える力
バンディングは保護者の行動に強烈な影響を与える。子供をBand 1に入れるために、小学校の段階から——場合によっては幼稚園の段階から——塾(補習班)に通わせる。
香港の塾産業は巨大だ。市場規模は年間HKD 数十億(数百億円)規模とされ、カリスマ講師(補習天王)はビルの外壁広告に顔が載り、年収が億単位に達するケースもある。
この塾投資は、Band 1に入るための「入場料」として機能している。教育投資の回収期間が「小学校5年生の時点で確定する」というのは、ベンチャーキャピタルのシード投資より短いスパンだ。
日本人家庭への影響
香港に駐在する日本人家庭の多くはインターナショナルスクールか日本人学校を選ぶため、バンディング制度の直接的な影響は小さい。
だがローカル校を選ぶ場合——例えば配偶者が香港人で、子供を広東語環境で育てたい場合——バンディングの影響は避けられない。小学校の成績管理が中学校の選択肢を決定的に左右する。
Band 3の現実
Band 3の学校が「悪い学校」かというと、そう単純ではない。優れた教師がBand 3の学校で献身的に教えている例もある。だが、生徒の学習意欲・保護者の教育投資額・学校に集まる寄付金に明確な差があるのは事実だ。
Band 3の学校から大学に進学する生徒の比率は、Band 1の学校と比べて数分の1以下になる。12歳の時点での振り分けが、18歳の進路を事実上決めている。
バンディングは効率の論理から生まれた制度だが、結果として「早期選別」の圧力を社会全体にかけている。香港の子供たちは、日本の子供たちより数年早く「競争」に放り込まれる。