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唐樓(トンラウ)が消えていく——香港の戦前建築がスクラップされる速度と保存の政治学

香港のトンラウ(唐樓)は戦前〜1960年代の集合住宅。再開発で急速に取り壊されるなか、保存運動と不動産開発の政治力学を在住者視点で分析します。

2026-05-31
唐樓再開発歴史建築ジェントリフィケーション都市計画

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香港の旺角(モンコック)を歩くと、40階建てのタワーマンションの隣に、4階建ての古い建物が残っている。外壁は剥がれ、ベランダに洗濯物がぶら下がり、1階には金物屋か漢方薬店が入っている。

唐樓(トンラウ)。1920年代〜1960年代に建てられた香港の原風景だ。

消滅の速度

Antiquities Advisory Board(古物諮問委員會)の調査によると、戦前(1945年以前)の唐樓は1,440棟が現存していたが、2020年代には約300棟にまで減った。毎年数十棟が取り壊されている計算だ。

取り壊しの理由は単純。土地の価値が建物の価値をはるかに超えているからだ。4階建ての唐樓が建つ土地に40階建てのタワーを建てれば、延床面積は10倍になる。デベロッパーにとって唐樓は「解体待ちの土地」にすぎない。

強制収用の仕組み

香港には「Land (Compulsory Sale for Redevelopment) Ordinance」(土地強制売却条例)がある。建物のオーナーの80%以上(築50年以上のビルは66.7%以上)が合意すれば、残りのオーナーに強制売却を命じる裁判所命令を取得できる。

つまり、唐樓の一室を所有している高齢者が「売りたくない」と言っても、他のオーナーが同意すれば退去を迫られる。補償金は市場価格に基づくが、九龍の唐樓は1戸あたり数百万HKD程度。新築マンションの頭金にもならない金額だ。

保存されるもの、されないもの

政府は一部の唐樓をGraded Historic Buildings(歴史的建造物)に指定して保護している。しかし指定されるのは建築的・歴史的に特に価値が高いものに限られる。庶民が住んでいた「普通の唐樓」は保護の対象にならない。

保存が成功した例として、灣仔のBlue House(藍屋)がある。1920年代築の唐樓群をリノベーションし、住民が住み続けたまま歴史建築として再生した。「留屋留人」(建物も人も残す)というコンセプトは評価されたが、このような事例は極めて稀だ。

在住日本人が見る唐樓

日本人が唐樓に住むケースは少ないが、1階のカフェやギャラリーを利用することはある。深水埗(シャムスイポー)や上環(ションワン)の唐樓をリノベーションしたカフェは、若者や外国人に人気がある。

しかしそのカフェが入っていること自体が、ジェントリフィケーション(高級化)の一段階だ。カフェが入り、家賃が上がり、元の住民が出て行き、やがて建物ごと取り壊される。この流れは東京の下町でも起きていることだが、香港では速度が圧倒的に速い。

唐樓の写真を撮る外国人は多い。しかしその建物があと何年残っているかを考える人は少ない。香港の景色は、見ている間にも変わっている。

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