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社会

香港の縦型都市は、物流の問題を新しく作り出した

超高層密集都市・香港で宅配がぶつかる壁。エレベーター待ち、ビルアクセス制限、置き配不可——縦に伸びた都市が生む物流コストを東京と比較する。

2026-04-07
香港物流高層ビル宅配都市設計

香港の宅配ドライバーにとって、最大の敵は距離ではない。高さだ。

香港の人口密度は世界有数で、約750万人が1,110平方キロメートルに住んでいる。ただし可住面積はその約25%程度。山地が多く平地が少ないため、人は上に住む。40階建て以上の住宅棟が林立し、一つの団地(公共屋邨)に数千〜数万人が暮らす。

この「縦に伸びた都市」は、物流に従来の都市にはなかった問題を突きつけている。

ラストワンマイルが「ラスト100メートル上」になる

物流業界で「ラストワンマイル」——配送拠点から届け先までの最後の区間——がコスト全体の大きな割合を占めることはよく知られている。

香港ではこのラストワンマイルが、水平距離ではなく垂直距離になる。ドライバーがビルの前に到着してからが本番だ。

まず、エレベーター。40階建ての住宅棟でエレベーターが2〜3基しかないことは珍しくない。朝夕のラッシュ時には数分待つのが当たり前。配達員は1件の配達に「移動5分+エレベーター待ち5分+フロア移動2分」というような時間配分になり、1時間あたりの配達件数が平場と比べて大幅に落ちる。

次に、アクセス制限。香港のマンション(特に私人住宅)はセキュリティが厳しく、配達員がロビーから先に入れないことが多い。インターフォンで呼んでも不在、管理人に預けようとしても「荷物は預からない」と断られる。

そして置き配がほぼ不可能。日本では玄関前に荷物を置く「置き配」が普及しているが、香港の共用廊下に荷物を置けば盗難リスクが高い。ドアの前のスペースは狭く、大きな荷物は物理的に置けないこともある。

東京との比較——横の都市と縦の都市

東京も人口密度は高いが、香港とは都市構造が異なる。東京は横に広がった都市だ。住宅地の多くは低層〜中層(2〜15階程度)で、戸建住宅も多い。配達員は自転車やバイクで効率的に面をカバーできる。

宅配ボックスの普及率も高い。大規模マンションには共用の宅配ボックスが設置されていることが多く、不在時でも配達が完了する。コンビニ受け取りという日本独自のインフラもある。

香港にはこの「受け取り側のインフラ」が発達していない。宅配ボックスの普及は限定的で、コンビニ受け取りのネットワークも日本ほどではない(セブンイレブンの店舗数は多いが、受け取りサービスの展開は後発だった)。

結果、香港の配達コストは高くなる。配達1件あたりの時間が長く、不在再配達の頻度も高い。

「ピックアップポイント」という解決策

香港の物流企業はこの問題にどう対処しているか。

最も普及しているのが、ピックアップポイント(自取點)だ。マンションの1階ロビーや近隣のコンビニ、専用のロッカー施設に荷物を届け、受取人が自分で取りに行く方式。

順豊速運(SF Express)は香港全域に数千のピックアップポイントを展開している。嘉里物流やAlfred24といったスマートロッカーサービスも増えている。

この方式は配達員の効率を劇的に改善する。40階まで上がる代わりに1階で荷物を置けるなら、1件あたりの時間は半分以下になる。

ただし、受取人にとっては「玄関まで届く」サービスから「自分で取りに行く」サービスへの後退でもある。便利なはずのネット通販が、最後の100メートルで不便になる。

フードデリバリーの特殊事情

食品の配達はさらに厄介だ。温かい料理を40階まで届けるには時間がかかり、料理が冷める。エレベーター待ちの間にスープがこぼれる。

Foodpandaやdeliverooの配達員は、香港の高層住宅での配達に特有の苦労を抱えている。配達員のSNS投稿を見ると、「エレベーターが来ない」「管理人に止められた」「フロアを間違えた(40A棟と40B棟が別のエレベーターホール)」という嘆きが頻繁に出てくる。

一部の高層住宅では、配達員がエレベーターに乗ること自体を禁止している。セキュリティの問題と、エレベーターの混雑を住人以外に使わせたくないという理由だ。この場合、配達員は1階のロビーで住人が降りてくるのを待つしかない。

ドローン配達は解決策になるか

縦型都市の物流問題に対して、ドローン配達が解決策として語られることがある。実際、香港の高層住宅のバルコニーにドローンで荷物を届けるイメージは未来的で魅力的だ。

でも現実的には難しい。香港の航空規制は厳しく、市街地でのドローン飛行は大幅に制限されている。高層ビルが密集するエリアでの風の乱流も技術的課題だ。そしてバルコニーのない住宅が多い(香港のマンションは外壁にエアコン室外機が設置されるデザインが一般的で、バルコニーは贅沢品だ)。

むしろ現実的な解決策は、ビル内のロボット配送だ。1階で荷物を受け取り、エレベーターに乗り、指定フロアまで自律走行するロボット。中国の一部のビルでは実証実験が始まっている。

都市は上に伸びるが、物流は上に伸びない

香港の物流問題は、都市設計のある種の矛盾を可視化している。

人口が増え、土地が限られると、建物は上に伸びる。でも物流インフラ——道路、トラック、配達員の脚力——は基本的に地表面に縛られている。都市が縦に伸びても、物流は横のまま。このギャップが、配達1件あたりのコストと時間を押し上げる。

東京が「横の効率」で問題を解決しているのに対し、香港は「縦の非効率」と向き合い続けている。人口密度が高く土地が少ない都市が今後さらに増えるなかで、香港の物流問題は他の都市の未来予想図でもある。

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