香港のシャワーの水圧は、屋上のタンクで決まっている
40階建てのビルの最上階でも水が出るのはなぜか。給水の仕組みを知ると、香港の住まい選びで見るべき点が一つ増える。
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香港の内見で、蛇口をひねる人はほとんどいない。見るのは間取りと眺望と家賃だ。けれど40階の部屋まで水がどうやって届いているかを知ると、内見でやるべきことが一つ増える。
水は上へ流れない
当たり前の話だが、水は自然には上へ流れない。道路の下を通る水道本管の圧力だけでは、高層建築の上層階まで水を押し上げることはできない。
そこで高層建築では、いったん建物の地下や低層階の貯水槽に水を受け、ポンプで屋上のタンクまで汲み上げる。そこから重力を使って各階へ配る。上から下へ落とすことで、圧力を確保する。
つまり蛇口から出てくる水は、一度屋上まで登ってから降りてきている。この上下運動が、高層住宅の日常を支えている。
上層階ほど水圧が弱い理由
屋上のタンクから重力で配水する構造だと、水圧はタンクからの落差で決まる。落差が大きい低層階ほど水圧が強く、タンクに近い最上階ほど弱くなる。
最上階の部屋でシャワーの勢いが弱い、という現象はここから来る。眺望が一番いい部屋が、水圧では一番不利になるという逆転が起きる。
建物によっては加圧ポンプで補正しているので一概には言えないが、構造としてこういう傾向があることは知っておいて損はない。眺望に対して払っている家賃と、実際に得られる水圧は、逆向きに動くことがある。
貯水タンクの管理が水質を決める
水が屋上のタンクに一定時間留まるということは、そのタンクの管理状態が水質に直結するということでもある。清掃の頻度、蓋の密閉、老朽化の程度。
建物の管理がしっかりしているところは、定期的にタンクの清掃を行って記録を残している。管理費が高い建物には、こういう見えないコストが含まれている。
内見のときに「貯水槽の清掃はどのくらいの頻度か」と管理事務所に聞ける状況なら、聞いてみる価値がある。答えが即座に出てくるかどうかで、管理の水準がある程度わかる。記録簿を出してくる建物と、聞き返してくる建物では、その後の対応の速さがだいたい違う。この種の確認は物件探しの段階でしかできない。
断水したときに何が起きるか
本管の工事などで供給が止まったとき、屋上タンクに残っている分だけは使える。タンクは緩衝装置としても働く。
逆に、ポンプが故障するとタンクへの汲み上げが止まり、タンクの残量を使い切った時点で水が出なくなる。停電でも同じことが起きる。高層階に住むということは、電気が止まると水も止まりうる、ということだ。
短時間なら問題ないが、長引く場合に備えて飲料水を多少確保しておくのは合理的だ。台風シグナルが上がる日の備えに、水を数本足しておくくらいの話だ。
海水と淡水の二系統
香港では、トイレの洗浄水に海水を使う地域がある。淡水資源の乏しさに対応するために長く運用されてきた仕組みで、世界的にも珍しい。
つまり建物によっては、淡水と海水の二つの配管系統が走っている。トイレの水が少し違う匂いや色をしていることがあるのはこのためだ。故障ではない。
この仕組みがあることで、香港は貴重な淡水の消費をかなり抑えている。それでも足りない分は東江から引いた水で賄っている。土地も水も足りない都市が、外から買うことと内で節約することの両方でしのいでいる。
内見で確認できること
現実的にできる確認は多くない。それでも、蛇口を開けて水圧を見る、シャワーを出してみる、トイレを流してみる——この程度は内見の場でできる。
築年数の古い建物では、配管の老朽化による水の濁りが出ることがある。しばらく出しっぱなしにして色を見るのは、簡単だが有効なチェックだ。
家賃の高い物件でも、給水設備の管理が良いとは限らない。眺望と水圧は別の話だ。
こういう見方もできる
高層都市に住むということは、重力に逆らうためのエネルギーを常に消費しているということでもある。ポンプで水を上げ、エレベーターで人を上げる。上に住むことには、目に見えないコストがかかっている。
家賃が眺望に対して払われているのは知られている。けれど同時に、その部屋まで水と人を運ぶ設備にも払っている。管理費という名目のお金の相当部分は、この垂直方向の物流に消えている。
蛇口をひねって水が出ることは、この街ではポンプが動いている証拠だ。それだけのことに気づくと、40階の部屋の見え方が少し変わる。