ジャカルタの公共交通革命——アンコットからTransJakartaへの変遷
かつてアンコット(乗合バス)だらけだったジャカルタに、世界最長のBRT・MRT・LRTが整備されつつある。公共交通の変遷と在住者の使い方を解説します。
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ジャカルタの通勤時間は片道2時間を超えることがある。それでも10年前と比べると、選択肢は劇的に増えた。かつての移動手段はアンコット(乗合ミニバス)とバイクタクシーだけだった街に、世界最長のBRT・地下鉄・ライトレールが走るようになった。
アンコット——路上のカオス
アンコット(angkot)はインドネシア語で「都市交通」の略。12〜15人乗りのミニバンが固定ルートを走り、乗客は好きな場所で乗り降りする。料金は均一で3,000〜5,000IDR(約28〜47円)。
乗り方は独特だ。道端で手を振れば止まる。降りたい場所で「キリ!」(左!)と叫べば路肩に寄せてくれる。エアコンはない。窓は常に開いている。ドアが開いたまま走ることも珍しくない。
アンコットはジャカルタの公共交通の原風景だが、安全性・定時性・快適性のすべてで課題を抱えていた。運転は荒く、ルートも不明確で、初めての利用者にはハードルが高い。
TransJakarta——世界最長のBRT
2004年に運行を開始したTransJakarta(トランスジャカルタ)は、専用レーンを走るBRT(Bus Rapid Transit)だ。路線延長251.2kmは世界最長。約5,000台のバスが運行し、1日あたり約140万人を輸送している(2026年3月時点)。
料金は均一3,500IDR(約33円)。距離に関係なく同一料金だ。エアコン付きで、ICカード(Jaklingko)で乗車する。専用レーンのおかげで一般道路の渋滞を避けられる区間もある(ただし専用レーンに一般車が侵入する問題は依然としてある)。
2017年からはアンコットの統合プロジェクトが始まった。既存のアンコット路線をTransJakartaのフィーダー路線として再編し、マイクロバス(Mikrotrans)として運行する取り組みだ。これにより日乗客数は30万人から100万人超に急増。乗客の約20%がマイクロバスからの乗り換え客だ。
MRT Jakarta
2019年に開業したMRTジャカルタは、南北線(Lebak Bulus〜Bundaran HI)が第1期として運行中。全長約16km、13駅。日本の円借款(JICA)で建設された。
料金は距離制で3,000〜14,000IDR(約28〜133円)。ラッシュ時は混雑するが、定時性と快適性は圧倒的だ。東西線(Phase 2)の建設も進んでいる。
LRT Jakarta & LRT Jabodebek
2023年にLRT Jabodebek(ジャカルタ〜ボゴール・デポック・ブカシ)が開業。郊外のベッドタウンとジャカルタ中心部を結ぶ路線で、通勤客の移動手段として機能し始めている。
在住者の使い分け
ジャカルタ在住の日本人が公共交通を使うケースは増えている。特にMRTとTransJakartaの沿線に住んでいれば、通勤に使える。
| 手段 | 用途 | 料金 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| MRT | 南北の移動 | 3,000〜14,000IDR | 定時・快適・混雑 |
| TransJakarta | 広域の移動 | 3,500IDR均一 | 安い・路線広い・渋滞回避 |
| KRL Commuter Line | 郊外↔都心 | 3,000〜13,000IDR | 通勤電車・混雑激しい |
| Gojek/Grab | ドアtoドア | 距離制 | バイク or 車・渋滞影響大 |
| アンコット | 近距離の路地 | 3,000〜5,000IDR | ローカル感・ルート知識要 |
電動化の波
TransJakartaは約470台の電気バスを導入済みで、2027年までにバス全体の50%を電動化する計画だ。2030年にはエコシステム全体の電動化を目指している。
ジャカルタの公共交通は「カオスの中の秩序」から「秩序の中にカオスが残る」状態へ移行しつつある。完璧ではないが、10年前に比べれば劇的な進歩だ。MRTの車内で涼しい空調に当たりながら、窓の外のアンコットを眺めると、この街の過渡期にいることを実感する。