インドネシアの選挙は祭りだ——2億7000万人が参加する「民主主義のカーニバル」
インドネシアは世界最大の一日選挙国の一つ。2024年大統領選では約2億人が一斉に投票した。選挙戦の派手さ、カンパニュ(選挙運動)の文化、結果への反応まで——選挙から見えるインドネシア社会。
この記事の日本円換算は、1万IDR≒96円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。
投票日の朝、インドネシアのどの村にも投票所がある。学校の教室、公民館の軒下、大きな木の下に設えたテント。有権者が列をつくり、指に紫のインクをつけて帰っていく。投票証明の「イジャリ・インク」を見せ合って笑う。
インドネシアの選挙は祭りに似ている。
世界最大規模の同日選挙
2024年2月14日、インドネシアは大統領・副大統領選挙と議会選挙(国会・地方議会・市区議会)を同日に実施した。有権者総数は約2億450万人(総選挙委員会KPU発表)。全国に80万か所以上の投票所が設置された。
一国の選挙としてはブラジルやインドと並ぶ世界最大クラスだ。選挙当日、世界時間帯の関係で真っ先に結果が出るインドネシアは国際メディアに注目される。
カンパニュ(選挙運動)の文化
インドネシアの選挙運動期間(カンパニュ)は派手だ。支持者が大型トラックに乗り込み、党旗を振り、爆音の音楽を鳴らして街を行進する。選挙ポスターが全ての電柱に貼られ、街全体が色に塗りつぶされる。
候補者ごとに支持者グループが組織され、ゴスペルのように集会で歌いながら支持を訴える。投票日の直前には沈黙期間(masa tenang)が設けられ、運動が禁止される——が、SNS上では活動が続くこともある。
「セレブリティ政治」の台頭
2024年の大統領選で話題になったのはプラボウォ・スビアント候補のTikTok戦略だ。元軍司令官として威圧的なイメージがあった彼が、カワイイ系のコスプレ動画や踊る姿をTikTokに投稿し、若い世代の支持を獲得したと分析されている。
対立候補のアニス・バスウェダンとガンジャル・プラノウォも動画やインスタライブを駆使した。選挙がコンテンツ化し、支持者がファンダムのように行動するという新しい構造が生まれつつある。
選挙後の社会
選挙結果が出た後、インドネシア社会は比較的速やかに「通常運転」に戻る。敗者側が選挙結果を法廷で争うことはあるが(2019年、2024年いずれも訴訟があった)、街頭での大規模な暴力には発展しなかった。
1998年のスハルト崩壊から四半世紀。インドネシアの民主主義は繰り返し機能し、権力の平和的移転が続いている。これを「当たり前」と見るか「奇跡」と見るかは、比較の対象次第だろう。
選挙のたびに紫のインクを指につけた人々の写真がSNSに流れる。それを見るたびに、この国の民主主義への確信の強さを感じる。