ジャカルタが沈んでいく理由——地下水汲み上げと海面上昇の二重苦
ジャカルタは年間最大25cmのペースで沈下している。原因は地下水の過剰汲み上げと海面上昇。首都移転計画ヌサンタラの背景にある、世界最大の沈降都市の現実を在インドネシア日本人向けに解説。
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ジャカルタの北部には、海面より低い場所に人が住んでいる地域がある。壁で海水を堰き止めている。その壁の向こうは海だ。
これは比喩ではない。ジャカルタ北部のいくつかの地区は、過去40年間で最大4メートル沈下した。現在も年間10〜25cmのペースで沈み続けている。東京の地盤沈下(戦後の最大値で年間約24cm、現在はほぼ停止)と比較すると、ジャカルタは「まだ沈んでいる最中」だ。
沈下の主因は地下水
ジャカルタの地盤沈下の最大の原因は、地下水の過剰汲み上げだ。上水道のインフラが全市民をカバーしきれていないため、企業や住民が井戸を掘って地下水を直接汲み上げている。
地下水が抜けると、その上の地層が圧密(自重で縮む)し、地表が下がる。このメカニズムは東京やバンコクが過去に経験したのと同じだが、ジャカルタでは規制と代替水源の整備が追いついていない。
海面上昇との二重苦
地盤が沈下する一方で、海面は気候変動により上昇している。この「下がるほう」と「上がるほう」が同時に進行するため、浸水リスクが加速度的に増大している。
2030年までにジャカルタ北部の広い範囲が恒常的な浸水域になるという予測がある。雨季(11月〜3月)にはすでに毎年のように洪水が発生し、道路が冠水して交通が麻痺する。
巨大堤防計画(NCICD)
インドネシア政府とオランダ政府が共同で進める「国家首都統合沿岸開発(NCICD)」計画では、ジャカルタ湾に全長30kmの巨大堤防を建設する構想がある。オランダの干拓技術を応用したものだ。
しかし予算は数十億ドル規模で、完成時期は未定。堤防を作っても地下水の汲み上げを止めなければ沈下は続くため、根本的な解決にはならないという指摘もある。
首都移転——ヌサンタラ
ジョコ・ウィドド前大統領が推進した首都移転計画は、新首都「ヌサンタラ」をカリマンタン島(ボルネオ島)東部に建設するものだ。ジャカルタの沈下問題が、この国家プロジェクトの大きな動機の一つとされている。
ただし首都が移転しても、ジャカルタの1,000万人以上の住民はそのまま残る。首都移転はジャカルタの沈下を解決するわけではなく、政府機能を「沈む街」から移すだけだ。
在ジャカルタ日本人の日常への影響
ジャカルタ北部(ムアラ・バル、プルイット周辺)に住む場合、雨季の洪水リスクは生活に直結する。車が水没する、出勤できない、停電する。
南部の高台(クバヨランバル、ポンドック・インダー)は沈下の影響が比較的軽い。住居選びの段階で、エリアの標高と過去の浸水履歴を確認しておくことは、単なる豆知識ではなく生活防衛だ。
世界で最も速く沈んでいる大都市に1,000万人が暮らしている。その事実だけで、ジャカルタの見え方が変わる。