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クエ・ラピスの層はなぜ多いのか——インドネシアの伝統菓子に見える植民地時代の影

インドネシアのクエ・ラピス(層菓子)は、オランダ植民地時代のヨーロッパ菓子が現地化した結果生まれた。18層以上に焼き重ねる手間と、祝祭日に贈答品として機能する文化的な意味を解説。

2026-05-26
クエ・ラピス伝統菓子食文化植民地時代レバラン

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クエ・ラピス(kue lapis)を断面から見ると、18〜20の色とりどりの層が交互に重なっている。1層ずつオーブンで焼いて重ねる。完成まで4〜5時間かかる。

なぜこんな手間をかけるのか。答えはオランダ植民地時代に遡る。

植民地が生んだ菓子

クエ・ラピスの原型は、オランダのスペックケーク(spekkoek)——ベーコンの断面に見立てた層状のケーキだ。17〜18世紀にオランダ人がインドネシアに持ち込んだバターケーキが、現地のスパイス(シナモン、クローブ、ナツメグ)と出会って変化した。

ヨーロッパの菓子がインドネシアの香辛料を吸収し、元のオランダでは作られなくなった菓子が、植民地だった場所で国民的な菓子として生き残っている。植民地主義の副産物を食べる、という皮肉な構図がここにある。

層の意味

クエ・ラピスの層の数には諸説あるが、多いほど「手間をかけた」「高級である」ことを示す。12層以下は簡易版、18層以上が本格とされる。

1層を焼くのに3〜5分。上火(ブロイラー)で表面を焼き固め、次の層の生地を流し入れて再び焼く。この繰り返しを18回以上行う。失敗すると層が剥離したり、色が混ざったりする。

レバラン(断食明け)の贈答品

クエ・ラピスが最も売れるのは、レバラン(イドゥル・フィトリ、断食明け大祭)の前だ。箱入りのクエ・ラピスは、日本のお歳暮における菓子折りに相当する贈答品として機能している。

1本(約20cm×10cm)の相場はIDR 150,000〜500,000(約1,425〜4,750円)。有名店や老舗パティスリーの高級版になるとIDR 1,000,000(約9,500円)を超えることもある。

レバラン前の1ヶ月間は、スーパーやパティスリーにクエ・ラピスの特設コーナーが設けられる。この時期だけで年間売上の大半を稼ぐ店もある。

ジャカルタ・スラバヤの有名店

ジャカルタでは「Harco Lapis」や「Lapis Bogor Sangkuriang」がクエ・ラピスの専門店として知名度が高い。スラバヤにも老舗の層菓子店が複数あり、東ジャワの味はスパイスが強めだと言われる。

日本人にとっての味

クエ・ラピスは、バウムクーヘンに近い食感だ。しっとりとした生地にバターの香り、そしてシナモンとクローブの余韻。日本人の味覚にも合いやすい。

初めてインドネシアに来た日本人がお土産に迷ったら、クエ・ラピスは無難な選択肢だ。常温で数日持ち、甘すぎず、見た目の層が話題になる。

18層のケーキを見ながら、400年前にオランダ船が運んできたバターとインドネシアのスパイスが出会った瞬間を想像する——というのは、やや文学的すぎるだろうか。でも食べ物の歴史は、教科書より正直だ。

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