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モルッカ諸島——世界を変えた香辛料の島々と現在

「スパイスアイランド」として世界史を動かしたインドネシアのモルッカ諸島(マルク州)の歴史と現在を解説。ナツメグ・クローブが引き起こした植民地化の構造と、今の島の姿。

2026-04-26
モルッカ諸島スパイス香辛料植民地マルク州

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ヨーロッパ人が命がけで海を渡り、インドネシアまでたどり着こうとした理由は何か。金でも銀でもない。ナツメグとクローブだ。

モルッカ諸島(現在のマルク州・北マルク州)は、かつて地球上でこれらの香辛料が採れる唯一の場所だった。

世界史を動かした2種類の植物

クローブ(丁子)はモルッカ諸島北部のテルナテ島・ティドレ島が原産。ナツメグはバンダ諸島の特産だった。

15〜17世紀、ヨーロッパでのこれらの香辛料の価格は異常なほど高かった。肉の保存・病気への薬用・香水の原料として需要があり、同重量の金と同等の価値があったとも言われる。

この経済的インセンティブがポルトガル・スペイン・オランダ・イギリスを東インド諸島に向かわせた。ヴァスコ・ダ・ガマのインド航路開拓(1498年)、マゼランの世界周航(1519〜22年)——これらの「大航海時代」の背後には、スパイスアイランドへのルートを確保したいという経済動機があった。

オランダ東インド会社(VOC)の独占

17世紀、オランダ東インド会社(VOC)はモルッカ諸島のスパイス貿易を独占しようとした。バンダ諸島のナツメグ産地を完全に支配するため、原住民のバンダ人を虐殺・追放し、オランダ人農園主(ペルケニール)と奴隷労働によるプランテーション制度を確立した。

バンダ諸島の人口はVOCの支配が確立した17世紀前半に約1万5,000人から約1,000人以下に減少したとされる。世界史の教科書に「植民地主義」という言葉が出てくるとき、その具体的な姿はこういうものだ。

現在のモルッカ諸島

州都アンボンを中心に、現在のマルク州・北マルク州の人口は合計約300万人。2000年代初頭に宗教間(キリスト教・イスラム教)の紛争が起きたが、現在は安定している。

クローブとナツメグは今もインドネシアの輸出品だが、かつてのような独占的地位はない。東南アジア・アフリカ・ブラジルでの栽培が広まったためだ。

インドネシア特産のクレテック(clove cigarettes:丁子タバコ)の主要原料がモルッカのクローブで、国内消費向けの需要は今も大きい。

在住外国人として訪れるなら

アンボンにはアンボン・パティムラ空港があり、ジャカルタ・スラバヤから国内線でアクセスできる。ダイビングスポットとして世界的な評価があり(バンダ海は生物多様性が高い)、近年はエコツーリズム目的の外国人訪問者が増えている。

香辛料の歴史を知った上でバンダ諸島を訪れると、のどかな島の風景が全く違って見える。地面に落ちているナツメグを拾いながら、それが世界地図を書き換えた植物だということを、身体で感じる場所だ。

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