マングローブとブルーカーボン——インドネシアが握る気候変動の切り札
インドネシアは世界最大のマングローブ林を持つ国だ。マングローブは熱帯雨林より多くのCO2を蓄えるとも言われる。その保全・再生が気候変動対策の重要な鍵になっている背景を解説。
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マングローブ林を水面から見ると、根が水の中に足を踏み込んだまま立っているように見える。あの奇妙な姿の木々が、実は地球規模の気候変動対策に関わっているとしたら?
インドネシアはそのカギを握る国のひとつだ。
世界の3割がインドネシアに
Global Mangrove Allianceのデータによれば、インドネシアは世界のマングローブ林の約20〜26%を抱える(推定、調査機関によって数値に差あり)。面積は数百万ヘクタール規模で、世界最大のマングローブ保有国のひとつとされる。
マングローブが注目される理由の一つが「ブルーカーボン」の概念だ。海岸・沿岸の生態系(マングローブ・塩性湿地・海草藻場)は、陸上の森林に比べ単位面積あたりはるかに多くの炭素を地中に蓄えるとされる。
研究によっては「マングローブは同面積の熱帯雨林の5倍以上の炭素を蓄える」とも言われるが、数値には研究間でばらつきがあり、確立された数値として扱うよりも「非常に高い炭素貯留能力を持つ」と理解する方が適切だ。
開発と消失の歴史
インドネシアのマングローブは過去数十年で大きく減少した。養殖池(主にエビ・魚の養殖)への転換、石炭積み出し港の建設、海岸道路の整備などが主な原因だ。1970年代〜2000年代にかけての損失が特に大きかったとされる。
マングローブが失われると、沿岸侵食が進み、高潮や津波に対する自然の防護機能が失われる。2004年のスマトラ沖地震津波では、マングローブが残っていた沿岸と失われた沿岸で被害の差が出たという研究報告もある。
再生プロジェクト
インドネシア政府は2021年以降、大規模なマングローブ再生計画を推進している。「1億8000万本の植樹」というビジョンを掲げ、BRGM(泥炭地・マングローブ再生機関)が中心になって各地で再生活動が進む。
ただし課題もある。植樹した苗木が活着するかどうかは、土壌・水流・塩分濃度のバランスに依存する。場所を選ばない大量植樹が失敗に終わるケースも報告されている。「植えた数」より「根づいた数」が重要だ。
カーボンクレジット市場との接点
ブルーカーボンは国際的なカーボンクレジット市場でも注目されている。保全・再生されたマングローブの炭素吸収量を「クレジット」として販売し、その収益を地域コミュニティに還元する仕組みが各地で試みられている。
コミュニティが保全の「当事者」になることで継続的な維持管理につながるとされるが、クレジット価格の変動や認証の信頼性問題など、整備途中の分野でもある。
インドネシアのマングローブは、地元の漁師の生計を支えながら、同時に地球規模の気候変動対策の資産になる可能性がある。その両方を成立させられるかどうかは、今後10年の政策と市場の動きにかかっている。