インドネシアはバイクの国だ——1.3億台が走る国の経済と社会
インドネシアの登録バイク台数は約1.3億台。人口2.7億人に対してほぼ2人に1台。バイクがインドネシアの経済・社会・都市設計にどう影響しているかを読み解く。
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インドネシアの登録済みバイク台数は約1.3億台。人口約2.78億人だから、ほぼ2人に1台だ。赤ん坊と高齢者を除けば、実質的に成人の大半がバイクを持っている計算になる。東京の山手線に相当する公共交通インフラを、この国はバイクで代替している。
なぜバイクなのか
車は高い。インドネシアの自動車には高率の奢侈税がかかる。トヨタ・アバンツァ(東南アジアの国民車的存在)の新車価格は約2.5億〜3.5億IDR(約237万〜332万円)。インドネシアの平均月収が約500万IDR(約4.75万円)だから、車は年収の4〜6年分だ。
一方、ホンダ・ビート(最も売れている原付スクーター)は約1,700万〜2,000万IDR(約16万〜19万円)。年収の3〜4ヶ月分。月割りのクレジット払いで月50万〜70万IDR(約4,750〜6,650円)なら手が届く。
バイクローンという金融インフラ
インドネシアのバイク販売の80%以上がローン(クレジット)だ。FIF、Adira Finance、WOMなどのファイナンス会社が全国の販売店と提携し、最短で身分証明書とKTP(国民IDカード)だけでローンを組める。
このバイクローンが「貧困層の金融包摂(Financial Inclusion)」の役割を果たしている面がある。銀行口座を持たない人でも、バイクローンを通じてクレジットヒストリーが蓄積され、その後の金融サービスへのアクセスが広がる。
Ojol(バイクタクシー)経済
Gojek・Grabのバイクタクシー(Ojol: Ojek Online)ドライバーは全国で推定400万人以上。これはインドネシアの就業人口の約3%に相当する。
Ojolは交通手段だけでなく、配達(GoSend、GrabExpress)、フードデリバリー(GoFood、GrabFood)、日用品の買い出し代行(GoMart)も担う。バイク1台が宅配便・ウーバーイーツ・メルカリ便を兼ねている。
ドライバーの月収は地域や稼働時間によって大きく異なるが、ジャカルタで月300万〜500万IDR(約2.85万〜4.75万円)が目安だ。
渋滞と排気ガス
ジャカルタの渋滞は世界ワースト級だ。TomTomの交通指数でジャカルタは常に上位10に入る。バイクは車の間を縫って進めるが、信号待ちではバイクの排気ガスが顔面に直撃する。
ジャカルタの大気汚染の約70%が交通起因とされ、バイクの排気ガスが大きな比率を占める。2023年にジャカルタの大気汚染指数が世界ワースト1位になった際、政府はEVバイクへの補助金を発表した。
EVバイクの未来
政府は2025年以降、EVバイクに最大700万IDR(約6.65万円)の補助金を提供している。ホンダ、ヤマハに加え、地場メーカーのAlva、GesitsなどがEVモデルを投入している。
だが充電インフラの不足が最大の壁だ。ジャカルタ市内でも公共充電ステーションはまだ少なく、地方部ではほぼ存在しない。バッテリー交換式のシステム(GoTo傘下のElectrum等)が解決策として模索されている。
在インドネシア日本人へ
インドネシアでバイクに乗るには、SIM C(バイク免許)が必要だ。観光ビザでは取得できないが、KITAS(一時滞在許可)があれば取得可能。交通事故率が日本の数十倍であることを念頭に置いて、乗るかどうかは慎重に判断する必要がある。
バイクに乗らない場合でも、バイクの存在を理解することはインドネシア社会を理解することに直結する。通勤、買い物、デート、子供の送り迎え、副業——インドネシア人の生活動線の大半はバイクの上で設計されている。