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ニッケル輸出禁止という賭け——インドネシアの資源ナショナリズムの論理

2020年、インドネシアはニッケル鉱石の輸出を禁止した。EVバッテリーの材料として需要急増する中、「原料だけ売るのはやめる」という宣言だ。この政策はうまくいっているのか。

2026-06-19
ニッケル資源政策EV経済ナショナリズム

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「資源を持っているのに、なぜ貧しいままなのか」——これは資源国が繰り返し突き当たる問いだ。インドネシアはこの問いに、ニッケル輸出禁止という形で答えを出した。

世界最大のニッケル埋蔵国

インドネシアは世界最大のニッケル埋蔵量を持つ国とされる(米国地質調査所USGS等の推定)。ニッケルはステンレス鋼の原料として長く使われてきたが、近年はEV(電気自動車)のリチウムイオンバッテリーに不可欠な素材として需要が急増している。

輸出禁止の決断

2020年1月、インドネシアはニッケル鉱石(未加工原料)の輸出を全面禁止した。予定より2年前倒しの決断だった。

狙いは「下流化(hilirisasi)」だ。原料のまま輸出するのではなく、国内でニッケル精錬・ステンレス製造・電池材料製造まで行い、付加価値を国内に残す。「原料国から製造国へ」という転換だ。

成果と批判

結果は部分的に成功している。スラウェシ島のモロワリ工業団地をはじめ、中国資本主導の大規模なニッケル精錬工場が次々と建設された。インドネシアのニッケル加工品輸出額は輸出禁止後に急増した(報道ベース)。

一方でEUはこの政策を「輸出制限による不公正競争」としてWTOに提訴した(2021年)。WTOは2022年にインドネシアの輸出禁止を違反と判定したが、インドネシアは控訴し、政策を維持する方針だ。

環境面では、大規模なニッケル採掘がスラウェシやハルマヘラの生態系を破壊しているという批判が国内外から出ている。

「EVグリーン」の矛盾

「環境に優しいEV」のバッテリーに使われるニッケルを採掘するために、熱帯雨林が切り開かれる——このパラドックスに国際的な注目が集まっている。

インドネシア政府はこれに対し「採掘基準を強化する」と言うが、実際の監視体制は十分ではないと批判される。「グリーンニッケル」認証の枠組みが議論されているが、実装はこれからだ。

日本との関係

日本はインドネシアの最大の投資国のひとつで、自動車産業を通じたつながりが深い。EV化の波の中で日本の自動車メーカーとインドネシアのニッケル政策は密接に絡む。トヨタ・パナソニックなどが現地のバッテリー・サプライチェーン構築に関与している。

インドネシアのニッケル政策は「発展途上国の資源国」というカテゴリを超えた、グローバルサプライチェーン再編の主役の一人として動く宣言でもある。その賭けが成功するかどうかは、今後10年で答えが出る。

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