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パーム油産業と森林破壊——インドネシア経済の屋台骨が抱える矛盾

インドネシアは世界最大のパーム油生産国で、輸出額は年間約250億ドル。経済成長を支える一方、熱帯雨林の消失・オランウータンの生息地破壊が国際的に批判されている。構造を整理する。

2026-05-08
インドネシアパーム油環境森林破壊経済

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スーパーで売られている加工食品の約半数に「植物油脂」と書かれている。その多くがパーム油だ。チョコレート、即席麺、マーガリン、洗剤、化粧品——パーム油は現代の消費生活に深く入り込んでいる。

そのパーム油の約60%を生産しているのがインドネシアだ。

数字で見るパーム油産業

インドネシアのアブラヤシ農園面積は約1,670万ヘクタール(2023年推計)。北海道の約2倍の面積だ。年間生産量は約4,600万トンで世界の約58%を占める(2位はマレーシアの約25%)。

パーム油の輸出額は年間約200〜250億ドル(約3兆〜3.7兆円)で、インドネシアの主要輸出品の一つだ。産業全体で約1,600万人の雇用を支えているとされる。

森林破壊の規模

パーム油産業の拡大は、熱帯雨林の大規模な消失を引き起こしてきた。

1990年から2020年の30年間で、インドネシアは約2,690万ヘクタールの森林を失った(Global Forest Watchの推計)。これは日本の国土面積の約71%にあたる。すべてがパーム油のためではないが、違法伐採・農地転用の主要因の一つだ。

カリマンタン(ボルネオ島インドネシア領)とスマトラ島が特に影響を受けた。オランウータンの生息地が急速に縮小し、スマトラオランウータンの個体数は約14,600頭(IUCN推計、2022年)まで減少している。

泥炭地と火災

さらに深刻なのが泥炭地(peatland)の問題だ。インドネシアの泥炭地は世界最大級で、大量の炭素を蓄積している。農園開発のために泥炭地を排水・焼き払うと、蓄積された炭素が大気中に放出される。

2015年の大規模泥炭火災では、インドネシアの温室効果ガス排出量が一時的にアメリカを上回ったとされる。煙害(ヘイズ)はシンガポール・マレーシアにまで広がり、国際問題になった。

構造的なジレンマ

パーム油産業を批判するのは簡単だが、構造はそう単純ではない。

小規模農家の生計 — アブラヤシ農園の約40%は小規模農家(smallholder)が運営している。数ヘクタールの農地でアブラヤシを育て、収穫した果実をプランテーション企業に販売する。彼らにとってパーム油は唯一の現金収入源であることが多い。

代替の難しさ — パーム油の単位面積あたりの油収量は、大豆油の約5倍、菜種油の約4倍。もし同じ量の油を他の作物で代替しようとすると、必要な農地面積はさらに大きくなる。

RSPO認証 — 「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」が認証制度を運営しており、認証油は環境・労働基準を満たしたものとされる。しかし認証油の市場シェアは全体の約19%にとどまり、認証の実効性への批判もある。

在住外国人が考えること

インドネシアに住んでいると、パーム油産業の恩恵と代償の両方を肌で感じる。ジャカルタのスーパーにはパーム油由来の製品が並び、カリマンタンに行けば地平線まで続くアブラヤシ農園が広がっている。

「パーム油ボイコット」を個人で実行するのはほぼ不可能だ——あまりにも多くの製品に使われている。消費者としてできるのは、RSPO認証マークのある製品を選ぶこと、そしてこの構造を理解した上で自分なりの判断基準を持つことだ。

経済成長か環境保護かの二項対立ではなく、両立の道を探る——インドネシアという国が国際社会から突きつけられている問いの一つだ。

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