ペチ(黒い帽子)をかぶる政治家は多いが、全員がイスラム教徒ではない
インドネシアで広く着用されるペチ(コピア)は、もともとイスラムの礼拝帽ではなく国民統合のシンボルとして定着した。その歴史的経緯と現代の使われ方を解説する。
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ジャカルタの公式行事でスーツ姿の政治家が黒い帽子(ペチ)をかぶっている写真を見て「全員イスラム教徒なのか」と思う外国人は多い。実際にはそうではなく、キリスト教徒のスラウェシ出身の政治家も、ヒンドゥー教徒のバリ出身の議員も、ペチをかぶる。
ペチは礼拝帽ではない
イスラムの礼拝帽として知られるクーフィー(白い丸帽)と、インドネシアのペチは別物だ。ペチは黒くて楕円形のフェルト製の帽子で、もともとメラネシア・マレー地域の民族衣装に起源があるとされる。
独立後、スカルノ初代大統領がペチを「インドネシア国民の統合のシンボル」として積極的に着用し、政府の公式行事にも定着させた。宗教や民族を超えて「インドネシア人」であることを示すシンボルになったわけだ。
学校と職場でのペチ
小学校の卒業式でペチをかぶる習慣のある地域は多い。独立記念日(8月17日)の式典では、地域によっては児童全員がペチをかぶることもある。
公務員の制服にペチが組み合わされることもあり、役所の窓口職員がペチをかぶっているのはよく見る光景だ。民間企業ではだいぶ少なくなっているが、伝統行事の場面では今でも登場する。
白いペチとの違い
黒いペチと区別するため、イスラムの礼拝時に用いる白い帽子(コピア・プティ)との使い分けが生まれている。モスクで礼拝するときは白いコピアをかぶり、国家行事や結婚式では黒いペチをかぶる——というのがよく見られるパターンだ。
一方でこの区別はかなり曖昧になってきており、若い世代ではどちらも着用しなくなっている人も多い。
外国人がペチをかぶるとどうなるか
バリやジョグジャカルタの観光地では、ペチを土産物として売っている。試着して写真を撮る外国人観光客は多く、地元の人はほぼ好意的に受け止める。「文化の盗用」という批判はインドネシアではあまり起こらない。むしろ「インドネシア文化に興味を持ってくれた」というポジティブな反応が多い。
公式行事や結婚式に招待された際にペチをかぶっていくと、インドネシア人の友人に喜ばれることもある。礼を欠く行為とは受け取られない。
バティック同様に「見た目以上の意味がある」
ペチに限らず、インドネシアの民族衣装には「これは宗教衣装か、民族衣装か、政治的シンボルか」という区別がしにくいものが多い。バティック(ろうけつ染め)が金曜日のオフィスカジュアルとして機能しているのと同様に、ペチも状況によって意味が変わる。
「これを着ているから〇〇教徒」という単純な読み取りはインドネシアでは通用しない。多様性の中の統合という国の形が、衣装の文化にも表れている。