プサントレンの変革——イスラム寄宿学校がプログラミングを教え始めた理由
インドネシアのプサントレン(イスラム寄宿学校)は3万校以上、生徒数400万人超。伝統的なコーラン教育に加え、IT教育やビジネス科目を導入する改革派プサントレンの動きを解説。
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プサントレン(pesantren)と聞くと、コーランを暗誦する子どもたちの姿を想像するかもしれない。その像は半分正しく、半分古い。
インドネシア全土に3万校以上あるプサントレンの一部は、午前中にアラビア語とコーランを学び、午後にPythonを書いている。
プサントレンとは何か
プサントレンは、インドネシア独自のイスラム寄宿学校だ。キアイ(kyai)と呼ばれる宗教指導者が運営し、生徒(サントリ)は寮生活を送りながらイスラムの教えを学ぶ。
起源はジャワ島の15世紀に遡る。インドネシアのイスラム化の担い手であり、独立運動でも重要な役割を果たした。プサントレンはインドネシアの教育システムの中で、公立学校と並ぶもう一つの柱だ。
改革の動き
2000年代以降、一部のプサントレンがカリキュラムを大幅に改訂している。
Pesantren Tebuireng(東ジャワ・ジョンバン): インドネシア最古級のプサントレンの一つ。近年はITラボを設置し、コーディング教育を導入している。
Pondok Pesantren Gontor(東ジャワ・ポノロゴ): 英語とアラビア語のバイリンガル教育で知られ、卒業生には閣僚や企業経営者が多い。起業家教育にも力を入れている。
Al-Izzah International Islamic Boarding School(マラン): 国際バカロレア(IB)に準じたカリキュラムを持つプサントレン。海外大学への進学実績がある。
なぜITを教えるのか
背景にはインドネシアのデジタル経済の成長がある。Gojek、Tokopedia、Bukalapakといったユニコーン企業がインドネシアから生まれ、IT人材の需要が急増した。
プサントレンの運営者たちは「卒業後に食べていける教育」を求められるようになった。コーランの暗誦だけでは就職できない。しかし宗教教育を捨てるつもりもない。結果として「午前は宗教、午後はIT」というハイブリッド型が生まれた。
保守派と改革派の緊張
全てのプサントレンが改革に賛成しているわけではない。伝統的なプサントレンでは「世俗的な教育を入れると宗教の純粋さが損なわれる」という反発がある。
この緊張関係はインドネシアのイスラム社会全体に通じるテーマだ。世俗化ではなく、宗教と近代を両立させる道を模索している。その実験場がプサントレンだと言える。
在インドネシア日本人にとっての意味
プサントレンに子どもを通わせる日本人はほぼいないが、職場のインドネシア人同僚にプサントレン出身者がいる可能性は高い。
「プサントレンに行っていた」と聞いたとき、それが何を意味するかを理解していると、相手のバックグラウンドへの敬意を示すことになる。インドネシアでは宗教と教育が日本以上に密接に結びついている。その構造を知ることは、異文化理解の入口だ。