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ポソヤンドゥ——インドネシアが誇る、世界最大規模の地域保健網

月1回、村の公民館に子どもたちが集まる。ポソヤンドゥはインドネシア独自の地域保健システム。全国に27万か所以上を誇り、国家の医療を底支えする仕組みの実態を探る。

2026-06-01
ポソヤンドゥ地域保健育児インドネシア社会

この記事の日本円換算は、1万IDR≒96円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨の金額を基準にしてください。

月に一度、インドネシアの村や都市の路地では不思議な光景が広がる。公民館の軒先や道ばたのテント下に小さな体重計が置かれ、乳幼児を抱えた母親たちが列をつくる。専門の医師はいない。ポランティアのおばさんたちが手際よく体重を測り、成長曲線に点を打ち、栄養剤のビスケットを配る。これがポソヤンドゥ(Posyandu)だ。

27万か所という数字の意味

インドネシア政府の統計によれば、2024年時点でポソヤンドゥは全国に27万か所以上存在する(推定)。1村につき1か所以上という密度で、国家の医療インフラが届きにくい農村部や離島にまで根を張っている。

比較のために言えば、日本全国の病院と診療所を合わせた数が18万か所ほど。インドネシアのポソヤンドゥはそれを大きく上回る。ただし、ポソヤンドゥは医療機関ではない。あくまで地域住民が自主運営する「健康ポスト」だ。

誰が動かしているのか

ポソヤンドゥの主役はカデル(kader)と呼ばれる地域ボランティアだ。多くは近所のお母さんたちで、特別な資格は必要ない。村の保健センター(Puskesmas)のスタッフが定期的に研修を行い、基本的な計測や栄養指導のスキルを伝える。

報酬はほぼない。インセンティブとして地方政府から月数万ルピア(数百円相当)が支払われることもあるが、それよりも「地域のためになっている」という感覚が継続の源泉らしい。ゴトン・ロヨンの精神——相互扶助の文化——がここでも静かに機能している。

活動内容は主に5つに分類される。体重測定、栄養指導、ビタミンA配布、基本的な予防接種、家族計画の情報提供だ。近年は高齢者向けの「ポソヤンドゥ・ランジュット・ウシア」も増えており、子どもだけでなく老人の健康管理にも役割が広がっている。

数字に表れる効果

インドネシアは過去30年で乳幼児死亡率を大きく下げた。1990年代に出生1000人あたり80人以上だったものが、2020年代には20人台にまで低下している(世界銀行データ)。ポソヤンドゥだけの成果とは言い切れないが、地域ネットワークが底上げしていることは確かだ。

一方で課題も明確だ。カデルの質にばらつきがある。都市部では参加率が落ちている。スタンティング(低身長)問題はまだ深刻で、2023年時点でインドネシアの子どもの約21%が慢性的な栄養不足による発育不全とされている(インドネシア保健省発表)。政府はポソヤンドゥをその解決策の中心に位置づけ、予算と人材を強化する方針を打ち出している。

在留日本人の親たちへ

インドネシアで子育てをする日本人駐在員の家族にとって、ポソヤンドゥは直接利用する場所ではないかもしれない。でも、近所に必ずある。子どもを連れていけば、言語の壁があっても体重を測ってもらえることがある。何より、そこで列に並ぶ母親たちの顔を見ていると、国家の医療制度が届かない場所を地域の力で補う構造がよく見えてくる。

インドネシアの医療は「不平等」と言われる。確かにそうだ。でもそれは欠如の話だけでなく、欠如を埋めようとしてきた人々の話でもある。ポソヤンドゥはその象徴だと思う。

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