インドネシアはなぜコメを輸入するのか——主食大国の農業ジレンマ
水田がどこにでもある国で、なぜコメを輸入するのか。農地の縮小、農民の高齢化、政治的な価格介入——インドネシアのコメ問題は、農業政策の矛盾を映す鏡だ。
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インドネシアといえばナシゴレン。コメなしでは生きられない国民が3億人近くいる。ジャワ島の車窓から見える田んぼは途切れることがない。それなのに、インドネシアは定期的にコメを輸入する。
「なぜ?」という疑問は単純だが、答えは複雑だ。
生産と消費のギャップ
インドネシアはアジア有数のコメ生産国だ。BPS(統計庁)によれば年間3000万〜3500万トンの精米換算生産量がある(年によって変動)。
しかし同時に年間3億人近くが一日に2〜3回コメを食べる消費国でもある。生産が消費を下回る年には不足が生じる。2024年にインドネシア政府は数百万トン規模の輸入を行った(報道ベース)。
農地が減っている
都市化と工業化が農地を飲み込んでいる。ジャワ島では特に住宅地・工業団地・インフラ整備が水田を潰してきた。インドネシア農業省は農地の転用規制を強化しようとしてきたが、地方の開発圧力とのせめぎ合いが続く。
農民の高齢化も深刻だ。若い世代は農業を選ばず、都市のサービス業や工場に移る。農業の後継者が育たない構造は日本のそれと重なるが、規模はより大きい。
政治と価格のジレンマ
コメの価格は政治的に敏感だ。安すぎれば農民の収入が下がり農業継続の意欲が失われる。高すぎれば都市の低所得層が食料不安に直面する。
インドネシア政府はBULOG(国家食糧調達庁)を通じてコメの価格に介入してきた。最低購入価格を設定して農民を保護しつつ、市場への放出を調整して消費者価格を抑える仕組みだ。しかしこの仕組みはしばしば機能不全に陥る。
2024年のコメ高騰(国際価格の上昇と国内在庫不足が重なった)では、庶民の食卓に直接影響が出た。ジャカルタのワルン(食堂)でコメが値上がりしたことが社会問題として報道された。
農業の将来像
インドネシア政府の課題は「コメ自給率の回復」だ。農地の保護、農業機械化の推進、品種改良——いずれも進めているが、急速な都市化と気候変動による収穫減の影響を打ち消すには至っていない。
「いつか緑の革命のようなものがまた来るかもしれない」という期待と、「その前に農業労働力が尽きる」という懸念が交錯している。
ジャワ島の水田の風景は、変わらず美しい。でもその農地を次の世代が耕すかどうかは、まだ決まっていない。