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文化・社会構造の分析

「海の民」であることの誇りと喪失——インドネシアの海洋アイデンティティ

17508の島からなるインドネシアは、海なくして存在しない国だ。しかし都市化した現代のインドネシア人は海から離れつつある。「海洋国家」を掲げる政策と、現実の乖離を考える。

2026-06-23
海洋文化アイデンティティ歴史インドネシア

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インドネシアには17508の島がある(インドネシア政府登録数)。その海岸線の総延長は約5万4000キロメートル——地球一周の1.35倍に相当する。

「海の国」であることは自明のように見える。では、インドネシア人は今も「海の民」なのか。

ブギス族とラウトの民

歴史的にインドネシアの海を支配してきたのは、スラウェシ島のブギス族やマレー系の海洋民族だ。ブギス族の帆船(プラウ)は17〜18世紀にはインドネシア全域、東南アジア、インドまで航海した。彼らは交易商人であり、時に海賊であり、独自の航法知識と造船技術を持っていた。

「バギー(bogyman)」という英語の怪物を指す言葉の語源がブギス族の名前だという説があるほど、欧州人に恐れられた存在だった(語源については諸説ある)。

リアウ諸島やカリマンタン沿岸には「ラウト族(海の人)」と呼ばれる海上生活者もいた。生まれてから死ぬまで船の上で暮らす人々で、都市化と漁業権の消失によって、その数は激減している。

ジョコウィの「海洋ビジョン」

2014年に就任したジョコウィ大統領は「グローバル海洋支点」(Poros Maritim Dunia)を国家ビジョンに掲げた。造船、海運、水産業の強化、島々をつなぐ海の道路(Tol Laut)整備——海の国として経済を組み立て直すという宣言だ。

港湾インフラへの投資、フェリーの定期航路拡充など、成果は出た部分もある。しかし「陸より海を大切にする」発想への転換は道半ばだ。ジャワ島中心の経済・政治構造が海洋ビジョンの実現を難しくしているという批判もある。

漁師の現実

インドネシアには伝統的な零細漁師が数百万人いる(推定)。大型漁船の台頭、外国漁船による密漁、気候変動による漁場の変化、燃料代の上昇——彼らを取り巻く環境は厳しい。

若者が漁師を継がず都市に出ていく構造は、農業の後継者問題と同じ構図だ。「海の国」の漁師が消えていくとすれば、それは何を意味するのか。

都市生活者と海

ジャカルタやスラバヤの都市部に住むインドネシア人にとって、海は遠い。水泳を習う機会が少なく、海で泳げない成人も多い(日本に似た状況かもしれない)。

海洋国家としてのアイデンティティを「国民の誇り」として語るのは簡単だ。しかしその誇りと、目の前の日常の海の距離は、意外と大きい。

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