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インドネシアの海藻養殖——世界最大の生産国の知られざる産業

インドネシアは世界の海藻生産量の約3割を占める最大の生産国。スラウェシ島を中心とした海藻養殖産業の構造と、日本との意外なつながりを解説します。

2026-05-04
海藻養殖スラウェシ

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インドネシアと聞いて「海藻」を連想する人は少ないでしょう。しかしFAO(国連食糧農業機関)の統計によると、インドネシアは中国に次ぐ世界第2位の海藻生産国で、生産量は年間約960万トン(2022年、養殖含む)。世界の海藻養殖の約3割をインドネシアが担っています。

しかもその海藻の多くは、私たちが日常的に口にしている食品や化粧品の原料です。

カラギーナンの原料

インドネシアで養殖される海藻の大部分は、紅藻類のEucheuma cottonii(ユーケウマ・コットニー)とKappaphycus alvarezii(カッパフィクス・アルバレジー)です。日本で食べるような昆布やワカメとは異なる種類で、主な用途はカラギーナンの原料です。

カラギーナンは食品添加物として、アイスクリーム、ヨーグルト、チョコレートミルク、加工肉などの増粘剤・安定剤に使われています。日本のコンビニで売られているデザートやドリンクにも、インドネシア産カラギーナンが含まれていることは珍しくありません。

食品以外にも、化粧品のジェル基材、歯磨き粉、医薬品のカプセル材にもカラギーナンは使われています。

スラウェシ島——海藻養殖の中心地

インドネシアの海藻養殖は、南スラウェシ州が最大の生産地域です。特にタカラール県(Takalar)やジェネポント県(Jeneponto)の沿岸部では、遠浅の海に縄を張り、海藻を吊るして育てる「ロングライン方式」が広がっています。

養殖の工程はシンプルです。

  1. 種となる海藻の断片を縄に結びつける
  2. 海面下50cm〜1m程度に縄を張る
  3. 約45〜60日で収穫可能なサイズに成長
  4. 収穫した海藻を天日干しで乾燥
  5. 乾燥海藻を仲買人に販売

初期投資が小さく、特別な設備も不要なため、漁村の零細農家でも参入できる産業です。南スラウェシ州だけで数万世帯が海藻養殖に従事していると推計されています。

漁村の経済構造

海藻養殖は沿岸漁村の重要な収入源です。乾燥海藻の買取価格は品質や市況によって変動しますが、1kgあたり5,000〜15,000IDR(約48〜143円)程度。1世帯が1サイクル(約2か月)で生産できる乾燥海藻は500kg〜2,000kgで、収入は2,500,000〜30,000,000IDR(約23,750〜285,000円)程度になります。

漁業と組み合わせている世帯が多く、「魚を獲りながら海藻を育てる」という複合型の生業です。天候や海水温の影響を受けやすい不安定な産業ではありますが、土地を持たない沿岸部の住民にとっては数少ない収入の手段です。

気候変動との闘い

近年、インドネシアの海藻養殖は気候変動の影響を受けています。

海水温の上昇は海藻の成長に直接影響します。Eucheuma cottoniiの適温は25〜30℃ですが、32℃を超えると白化現象(ice-ice disease)が発生し、壊死するリスクが高まります。2016年のエルニーニョでは、南スラウェシ州の海藻生産量が大幅に減少しました。

インドネシア海洋水産省(KKP)は、高水温に耐性のある品種の開発や、深い水域での養殖技術の研究を進めています。また、養殖地域の多様化(ヌサ・トゥンガラ州やマルク州への拡大)も進行中です。

日本との関係

日本はインドネシア産カラギーナンの輸入国のひとつです。日本の食品産業は品質基準が厳しいため、インドネシアの加工業者にとって日本向けの輸出は「品質認証」としての意味もあります。

また、JICAはインドネシアの海藻養殖に関する技術支援を行ってきた歴史があります。養殖技術の改善、品質管理、流通効率化などの分野で協力が続いています。

インドネシアの海藻を通して見えるのは、グローバルな食品サプライチェーンの末端の姿です。コンビニのアイスクリームに使われているカラギーナンが、スラウェシ島の漁村の家族の収入を支えている。その距離と構造を知ると、普段の食生活が少し違って見えてきます。

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