インドネシアのユニコーン企業——GoTo・Tokopedia・Travelokaが変えたデジタル経済
東南アジア最大のスタートアップ大国インドネシア。GoTo、Traveloka、Blibliなどユニコーン企業が生まれた背景と、デジタル経済の現在地を整理します。
この記事の日本円換算は、10,000IDR≒95円で計算しています(2026年5月時点)。為替は変動するので、現地通貨(IDR)の金額を基準にしてください。
インドネシアから生まれたユニコーン企業(評価額10億ドル以上の未上場企業)は、東南アジアで最も多い。人口2億7,700万人、中央年齢29歳、スマートフォン普及率約79%(DataReportal 2024)。この3つの数字が、インドネシアのデジタル経済を理解する出発点です。
GoTo——配車アプリから「生活インフラ」へ
2021年、配車・フードデリバリーのGojekとEコマースのTokopediaが合併して誕生したGoTo Group。2022年にインドネシア証券取引所(IDX)に上場しました。
Gojekは2010年にコールセンター型のバイクタクシー配車サービスとして始まりました。創業者のNadiem Makarim(ナディム・マカリム)は、ジャカルタの渋滞を前に「バイクタクシー(Ojek)をアプリで呼べたら」と考えた。この発想が、インドネシアのデジタル経済の起点になりました。
現在のGoToアプリでできることは多岐にわたります。
- GoRide / GoCar: バイクタクシー・自動車配車
- GoFood: フードデリバリー(インドネシア最大)
- GoPay: 電子決済(QRコード決済)
- GoSend: 個人間配送
- Tokopedia: Eコマース(インドネシア最大級のマーケットプレイス)
1つのアプリの中に「移動・食事・買い物・決済・配送」が全て入っている。インドネシアの都市生活において、GoToアプリを使わない日はほぼないと言っていい。
Traveloka——旅行予約の東南アジア最大手
Travelokaは2012年にFerry Unardi(フェリー・ウナルディ)がハーバード大学在学中に創業した旅行予約プラットフォームです。航空券の比較予約サービスから始まり、ホテル、アクティビティ、レストラン予約、さらには金融サービス(後払い決済)まで拡大しました。
東南アジア6カ国でサービスを展開し、月間アクティブユーザー数は数千万人規模です。インドネシア国内線の航空券予約では圧倒的なシェアを持っています。
なぜインドネシアからユニコーンが生まれるのか
3つの構造的要因があります。
人口ボーナス: 2億7,700万人という市場規模。国内だけでスケールが成り立つ。東南アジアのGDP全体の約4割をインドネシアが占めています(IMF、2024年)。
金融包摂の余地: インドネシアの銀行口座保有率は約52%(World Bank Global Findex 2021)。成人の約半数が銀行口座を持っていない。この「未銀行化層(unbanked)」に対して、電子決済(GoPay、OVO、DANA等)がダイレクトにリーチした。既存の金融インフラが弱いことが、逆にフィンテックの急成長を可能にしました。
政府の支援: インドネシア政府は「Making Indonesia 4.0」政策の一環としてデジタル経済を推進。外国投資の規制緩和やスタートアップ支援策を打ち出しています。
上場後の現実
ただし、ユニコーンが上場すれば成功、という単純な話ではありません。
GoToは2022年4月にIDXに上場しましたが、上場後の株価は公募価格から大幅に下落。2023年にはBukalapak(Eコマース)も株価が上場時の約5分の1になる時期がありました。
東南アジアのテック企業全般に言えることですが、「ユーザー数を伸ばしながら赤字を出し続ける」成長モデルから、収益性の確保へのシフトを迫られています。GoToは2023年後半から「黒字化優先」を掲げ、人員削減やサービスの選択と集中を進めています。
在住日本人にとっての影響
日本からインドネシアに移住すると、デジタルサービスの浸透度に驚くことがあります。
ジャカルタのワルン(屋台)ですらQRIS(インドネシア統一QRコード決済)に対応していることがあり、現金を使わない日が増えています。GoFoodでワルンの料理を注文し、GoPay で支払い、GoSendで荷物を送る——この一連の動作が月額数十万IDR(数千円)で完結する。
一方で、テック企業の急成長がギグワーカー(配車ドライバー・デリバリー配達員)の労働条件という課題も生んでいます。GoRideのドライバーの平均月収は3,000,000〜5,000,000IDR(約28,500〜47,500円)程度と言われ、最低賃金を下回るケースも報告されています。
デジタル経済の恩恵とその代償。インドネシアのスタートアップは、その両面を同時に見せてくれる存在です。