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トランスジャカルタは世界最長のBRTだ——渋滞都市が選んだ地下鉄の代替案

ジャカルタのBRT(バス高速輸送)システム「トランスジャカルタ」は路線長251kmで世界最長。地下鉄を掘る金がない都市が選んだ解決策の成果と限界を検証する。

2026-05-23
交通BRTインフラ都市

この記事の日本円換算は、10,000IDR≒95円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(IDR)の金額を基準にしてください。

ジャカルタの渋滞は、通勤に片道2〜3時間を奪う。地下鉄を掘るには兆単位の予算と10年以上の工期がかかる。2004年、ジャカルタは「地下鉄の代わりにバスに専用レーンを与える」という実験を始めた。トランスジャカルタ(TransJakarta)だ。

BRTとは何か

BRT(Bus Rapid Transit)は、バスに地下鉄のような専用インフラを与えるシステムだ。専用レーン、駅のようなシェルター、ICカードによる事前改札、等間隔の運行。「地上の地下鉄」とも呼ばれる。

ブラジルのクリチバが1974年に世界初のBRTを導入し、ボゴタのトランスミレニオがBRTの成功事例として有名だ。トランスジャカルタはこれらを参考に設計された。

世界最長の路線網

2004年に第1回廊(Blok M〜Kota)が開通して以降、路線は拡大を続けている。2025年時点で路線長は約251km、回廊数は13本+支線多数。1日の利用者数は約100万人。

運賃は全線均一3,500IDR(約33円)。エアコン付きのバスで、ジャカルタ市内を端から端まで移動しても33円。渋滞にはまった車の横を、専用レーンで通過していく。

専用レーンの攻防

トランスジャカルタの専用レーンには一般車両の進入が禁止されている。だが実際にはバイクや車が頻繁に侵入する。朝のラッシュ時、渋滞で動かない一般車線を横目に、専用レーンに入ってくるバイクの列は日常的だ。

政府は監視カメラとERP(Electronic Road Pricing)の導入で取り締まりを強化しているが、罰金50万IDR(約4,750円)を払っても専用レーンを走った方が時間的に得だと考えるドライバーがいる限り、いたちごっこが続く。

MRTとの棲み分け

2019年にジャカルタMRT(地下鉄)の南北線が開通した。Lebak Bulus〜Bundaran HI間の約15.7km。2025年には東西線の延伸工事も進行中だ。

MRTは速くて快適だが、路線が限定的で、建設コストが1kmあたり約$100 million。トランスジャカルタは同じ距離を1/10〜1/20のコストでカバーできる。「MRTが大動脈、トランスジャカルタが毛細血管」という棲み分けが進んでいる。

女性専用車両

トランスジャカルタの一部路線にはピンク色の女性専用バスが走っている。ラッシュ時の車内痴漢が問題になったことへの対応だ。

MRTにも女性専用車両がある。日本の女性専用車両と同じ発想だが、インドネシアでは宗教的な理由(イスラム教の男女分離の慣行)からも支持されている面がある。

在インドネシア日本人の活用法

トランスジャカルタを使いこなすコツは以下の通り。

  • ICカード(Jakcard、Flazz、e-money)を事前チャージ: 現金は使えない
  • ラッシュ時(7〜9時、17〜20時)は避ける: 満員で乗れないこともある
  • 回廊1番(Blok M〜Kota)が最も混む: 代替ルートを覚えておくと便利
  • Google Mapsでルート検索可能: バスの到着時刻もリアルタイムで表示される

トランスジャカルタは完璧なシステムではない。遅延もあるし、専用レーンへの侵入もある。だが1日100万人が33円で移動できるインフラを、地下鉄の1/10のコストで構築した事実は、都市交通の教科書に載る実験だ。

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