ジョグジャカルタの王宮文化——共和国の中に残るスルタンの統治
インドネシア共和国の中で唯一、スルタン(王)が州知事を兼ねる特別州ジョグジャカルタ。クラトン(王宮)を中心とした伝統文化と、現代の都市生活の共存を解説。
この記事の日本円換算は、10,000IDR≒95円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(IDR)の金額を基準にしてください。
インドネシアは共和国だ。大統領を国家元首とする民主主義国家——のはずだが、ジョグジャカルタ特別州だけは事情が違う。この州の知事は選挙で選ばれない。スルタン(王)が自動的に州知事を兼ねる。現在のスルタンはハメンクブウォノ10世。2012年の法改正でスルタンの知事就任が法的に正式化された。
クラトン(Kraton)——王宮の現在
ジョグジャカルタの中心にあるクラトン(Kraton Ngayogyakarta Hadiningrat)は1756年に建設された王宮だ。現在もスルタンの居住地であり、同時に観光地でもある。入場料はIDR 15,000(約142円)程度。
クラトンの中では今も宮廷文化が維持されている。アブディダレム(abdi dalem)と呼ばれる宮廷奉仕者が数百人おり、伝統的な衣装を着て王宮の維持・儀式の運営にあたっている。彼らの報酬は月額数万〜数十万IDR程度で、生活費をまかなえる額ではない。名誉と信仰心で奉仕している。
宮廷芸能
クラトンでは定期的にガムラン(gamelan)の演奏とワヤン(wayang、影絵芝居)の上演が行われる。
ガムラン — 青銅の打楽器群によるアンサンブル。クラトンのガムランは「ガムラン・スカラン」と呼ばれる宮廷様式で、外の民間ガムランとは曲目・演奏法が異なる。毎週月・水曜日にクラトン内で無料の演奏会が開かれている。
ワヤン・クリ — 牛革で作った人形を使う影絵芝居。ダラン(人形遣い)が一人でストーリーを語り、人形を操り、楽団に指示を出す。演目はラーマーヤナやマハーバーラタのジャワ版が中心で、上演は夜9時頃から翌朝まで続くこともある。
ジョグジャカルタの暮らし
ジョグジャカルタ(通称ジョグジャ)はインドネシアの中でも生活コストが安い都市だ。ジャカルタと比較すると家賃は半分以下になる。
| 項目 | ジョグジャの目安 |
|---|---|
| 1ベッドルームの家賃 | IDR 2,000,000〜4,000,000/月(約19,000〜38,000円) |
| 屋台の食事 | IDR 10,000〜20,000(約95〜190円) |
| カフェのコーヒー | IDR 20,000〜35,000(約190〜332円) |
ガジャマダ大学(UGM)をはじめ多くの大学があるため学生の街でもあり、カフェ・ギャラリー・コワーキングスペースが増えている。バリほど外国人コミュニティは大きくないが、アーティスト・研究者・長期旅行者が集まる独特の雰囲気がある。
在住外国人にとってのジョグジャ
ジョグジャカルタの魅力は「伝統と現代が地続きであること」だ。朝、クラトン周辺を散歩するとガムランの練習が聞こえ、夜はマリオボロ通りの屋台でグドゥグ(ジャックフルーツの煮込み、ジョグジャの名物料理)を食べる。
ボロブドゥール遺跡まで車で約1時間、プランバナン遺跡まで約30分。世界遺産への日常的なアクセスも在住者ならではの特権だ。
共和国の中に王国が残っている。選挙ではなく血統で統治者が決まる。この構造に違和感を覚える人もいるだろうが、ジョグジャの住民の多くはスルタンに対して深い敬意を持っている。独立戦争時にスルタンが共和国側についたという歴史的経緯が、その信頼の根底にある。