1杯10円のチャイはどうやって成り立つのか:インド茶産業のサプライチェーン
路上で売られる1杯10INRのチャイの裏側には、アッサムの茶園からムンバイの路上までをつなぐ巨大なサプライチェーンがある。
この記事の日本円換算は、1INR≒1.8円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(INR)の金額を基準にしてください。
インドの路上で売られるチャイの値段は1杯10〜20INR(約18〜36円)。スターバックスのラテが350INR(約630円)する同じ都市で、この価格は異常に安い。
だがこの10INRのチャイは、赤字ではない。ちゃんと利益が出ている。どういう構造なのか。
チャイワーラーの原価構造
路上のチャイ屋台(チャイワーラー)の原材料コストを分解すると、1杯あたりこうなる。
- 茶葉(CTC茶): 2〜3INR
- 牛乳: 3〜4INR
- 砂糖: 0.5〜1INR
- スパイス(ジンジャー、カルダモン等): 0.5〜1INR
- カップ(使い捨て素焼きまたは紙): 0.5〜1INR
- ガス代: 0.5〜1INR
合計: 7〜11INR。売価10〜20INRに対して、粗利は30〜50%になる。
ここに場所代がほぼかからない(路上だから)。人件費は自分の労働力。1日300〜500杯売れば、月収30,000〜80,000INR(約54,000〜144,000円)程度になる。インドの平均月収を考えれば、悪くないビジネスだ。
インドの茶産業:世界第2位の生産国
インドは中国に次ぐ世界第2位の茶生産国で、年間生産量は約130万トン。主要産地はアッサム(全体の約50%)、西ベンガル(ダージリン含む)、南インド(ニルギリ、ケララ)の3地域だ。
ただし、インドが生産する茶葉の約80%は国内で消費される。インド人は世界で最も茶を飲む国民の一つだ。
CTC茶という発明
チャイに使われるのは「CTC茶」と呼ばれる加工法の茶葉だ。Crush(砕く)、Tear(裂く)、Curl(丸める)の頭文字で、茶葉を機械で細かく加工して小さな粒状にする。
CTC茶は1930年代にイギリス人が発明した。高品質なリーフティーと違い、品質にばらつきのある茶葉でも均一な味を出せる。短時間で濃く抽出でき、牛乳と砂糖を加えるチャイには最適の加工法だ。
この「品質のばらつきを吸収する技術」が、路上のチャイワーラーから大手チェーンまでを支えている。安い茶葉を使っても、CTC加工+牛乳+砂糖+スパイスで美味しいチャイになる。
オーガナイズドとアンオーガナイズド
インドの茶の流通は「オーガナイズド(組織化された)」セクターと「アンオーガナイズド(非組織)」セクターに分かれる。
オーガナイズド: Tata Consumer Products(タタ・ティー)、Hindustan Unilever(ブルックボンド)、Wagh Bakri等のブランド茶。パッケージされてスーパーや小売店で売られる。
アンオーガナイズド: 地元の茶問屋から量り売りで買う茶葉。チャイワーラーの多くはこちらを使う。品質は安定しないが、価格が安い。
市場の約60%がアンオーガナイズドだと推定されている。つまり、インドの茶の半分以上は、ブランド名のない茶葉として流通している。
チャイチェーンの台頭
近年、Chai Point、MBA Chai Wala、Chaayos等のチャイチェーンが急成長している。価格は1杯40〜100INR(約72〜180円)と路上チャイの数倍だが、清潔な店舗・Wi-Fi・エアコンが付く。スタバのインド版とも言える存在だ。
Chaayosは独自のIoTブリューイングマシンを開発し、各店舗で一定品質のチャイを提供している。テクノロジーでチャイを標準化する、という発想がインドのスタートアップらしい。
1杯のチャイの旅
アッサムの茶園で摘まれた葉が、CTC工場で粒になり、コルカタやグワハティのオークションで競り落とされ、問屋を経由してデリーやムンバイの路上に届く。最後にチャイワーラーの手鍋で牛乳とスパイスと煮出され、素焼きのカップに注がれて10INRで売られる。
この旅の全行程で、誰かが少しずつ利益を取っている。そしてその連鎖が、14億人の朝を支えている。