高架道路を架け続ける都市——インドのフライオーバーが示す交通思想
インドの都市部には交差点を立体交差にするフライオーバー(高架道路)が次々と建設されています。渋滞解消のために高架を架けるが、高架の下にまた渋滞が生まれるこの構造が、インドの都市計画の考え方を映し出しています。
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バンガロールの通勤者に「通勤時間は?」と聞くと、距離ではなく「フライオーバーをいくつ通過するか」で答えることがある。フライオーバー(flyover=高架道路)はインドの都市風景を構成する主要な要素であり、同時にインドの都市計画の思想を映す鏡でもある。
なぜフライオーバーが増えるのか
インドの主要都市は急激なモータリゼーションに直面している。デリー首都圏だけで登録車両数は約1,300万台。道路面積の拡大が追いつかないとき、「上に道を作る」のが最も手っ取り早い解決策になる。
用地買収は政治的にも法的にも困難だ。既存の道路を拡幅するには沿道の建物を立ち退かせる必要があり、裁判に何年もかかる。一方、既存の道路の上に高架を架けるなら土地の問題が最小化される。フライオーバーは「土地問題を上空に逃がす」技術だ。
高架の下にはまた渋滞が生まれる
皮肉なことに、フライオーバーが完成すると高架下のスペースに新たな交通が発生する。高架入口に向かう車が地上で合流渋滞を起こし、高架出口で地上に降りた車がまた詰まる。都市計画の研究者たちはこれを「誘発需要(induced demand)」と呼ぶ。道路を作ると、その道路を使う交通が新たに生まれるという現象だ。
バンガロールのシルクボード・ジャンクション付近はその典型で、フライオーバーが完成した後もインド有数の渋滞スポットであり続けている。
フライオーバーの上に地下鉄を通す
この問題に対するインドの最新の回答が、フライオーバーの上に高架メトロを走らせるという発想だ。バンガロールのナンマ・メトロ(Namma Metro)はまさにこの方式を採用しており、既存のフライオーバーと並走する高架軌道がいくつもある。地上が道路、中層がフライオーバー、上層がメトロという三層構造の区間も存在する。
デリー・メトロも多くの区間が高架で、幹線道路の中央分離帯の上に駅がある構造は初見だと不思議な光景だ。
在住者にとっての実用的な意味
フライオーバーを知っておくと通勤ルートの選択が変わる。Google Mapsのナビゲーションが「フライオーバーを通るルート」と「地上ルート」を別々に提案してくることがある。ラッシュ時はフライオーバーの入口が詰まっている場合、地上の裏道を迂回した方が早いこともある。
在住者同士の会話で「あのフライオーバーの下の」という表現が地名代わりに使われることも多い。「ITO Flyoverの下のパンワーラー(betel leaf seller)」のような言い方は、住所よりも正確に場所を伝える。
フライオーバーの建設工事中は片側通行規制が数ヶ月〜数年続くことがある。工事区間の通勤ルートは、事前にGoogle Mapsのライブ交通情報で確認しておくのが実用的だ。
インドの都市は地面が足りないから上に積む。積んだら積んだで新しい問題が生まれる。その問題もまた上に積んで解決しようとする。この繰り返しが、インドの都市のスカイラインをつくっている。