結婚をアルゴリズムで解く——インドのマッチメイキングとテクノロジー
インドの見合い結婚は今、AIとビッグデータで最適化されている。Shaadi.comの月間4,000万ユーザー、星座マッチングのスコアリング、そしてアルゴリズムが変えた結婚観を考察する。
この記事の日本円換算は、1INR≒1.8円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(INR)の金額を基準にしてください。
インドの結婚の約85%はarranged marriage(見合い結婚)だとされている(IPSOS Global Advisor、2023年)。世界で最も「恋愛結婚率が低い国」の一つだ。しかし、この数字が意味するものは、多くの外国人が想像する「親が決めた相手と結婚する」とはかなり違う。
マッチメイキングの産業化
インドの結婚マッチメイキング市場は約₹50,000 crore(約5,000億ルピー、約9,000億円)規模とされる。この市場のオンライン化を牽引したのがShaadi.com(1997年設立)とBharatMatrimony(1997年設立)だ。
Shaadi.comの月間アクティブユーザーは約4,000万人。登録時に入力する情報は、一般的なマッチングアプリとは次元が異なる。
- 基本情報: 年齢、身長、体重、肌の色(Fair / Wheatish / Dark等)
- 宗教・カースト: Hindu / Muslim / Christian / Sikh等 → さらにサブカースト
- 学歴: 大学名、学位、専攻
- 職業・年収: 勤務先名、役職、年収帯
- 家族情報: 父親の職業、母親の職業、兄弟姉妹の数と婚姻状況
- 星座(Kundali): 出生時刻・出生地に基づくヴェーダ占星術のチャート
「肌の色」の選択肢があることに抵抗を覚える日本人は多いだろう。実際、2020年にMatrimony.comは「肌の色フィルター」を廃止した。しかしShaadi.comでは依然として残っている。
Kundaliマッチング——星座の互換性をスコア化する
ヒンドゥー教徒の結婚では、Kundali Matching(星座の相性診断)が今でも重視される。花嫁と花婿の出生チャートを36の観点(Guna)で照合し、36点満点でスコア化する。
18点以上が「結婚に適する」とされ、24点以上が「理想的」だ。36点中14点以下の場合、伝統的にはその結婚は避けるべきとされる。
驚くべきことに、Shaadi.comやBharatMatrimonyにはKundaliマッチング機能が組み込まれている。出生時刻を入力すると自動的にGunaスコアが計算され、相手のプロフィールに表示される。
つまり、AIのレコメンデーションアルゴリズムとヴェーダ占星術が同居するプラットフォームが、月間4,000万人に使われている。
アルゴリズムが変えた「見合い」の形
従来のarranged marriageは、家族のネットワークや仲人(matchmaker)を通じて候補者を紹介し、家族同士が会って決める形式だった。
オンラインプラットフォームはこのプロセスを変えた。本人がプロフィールを閲覧し、気になる相手にリクエストを送り、チャットし、お互いの合意の上で家族を巻き込む——という流れが主流になりつつある。
形式上は「arranged」だが、本人の選択権はかなり大きい。「Semi-arranged marriage」とでも呼ぶべき形態が広がっている。
日本人がインドで結婚に関わるとき
インド在住の日本人が現地の結婚式に招待されることは珍しくない。結婚式は3日〜1週間に及ぶこともあり、出席する場合は以下を覚えておくと便利だ。
- ご祝儀: 現金(₹1,100、₹5,100、₹11,000等の「1」で終わる金額が縁起がよい)を封筒に入れて渡す
- 服装: 女性はサリーかサルワール・カミーズ、男性はクルタ・パジャマが喜ばれるが、フォーマルな洋装でも問題ない
- 時間: 招待状に書かれた時刻に始まることはまずない。1〜2時間遅れが標準
インドの結婚は、個人の選択と家族の意向とアルゴリズムの推薦が複雑に絡み合う交渉だ。その交渉の仕方が、テクノロジーによって静かに変わっている。「親が決める」時代から「AIが候補を出し、本人が選び、親が承認する」時代へ。変化は見た目より速い。