Kaigaijin
海外在住日本人のメディア
医療

世界の薬局——インドのジェネリック薬が地球の医療を変えた理由

インドは世界のジェネリック医薬品の約20%を生産し、輸出量は世界第3位。なぜインドが「世界の薬局」になったのか、その歴史と在住外国人の薬局体験を解説する。

2026-05-09
医療ジェネリック製薬経済生活

この記事の日本円換算は、1INR≒1.8円で計算しています(2026年4月時点)。為替は変動するので、現地通貨(INR)の金額を基準にしてください。

世界で消費されるジェネリック医薬品の約20%がインド製だ(Indian Pharmaceutical Alliance)。アフリカで使われるHIV/AIDS治療薬の約80%がインド企業の製品で、アメリカのジェネリック処方箋の約40%にインド製の有効成分が使われている。

なぜインドが「世界の薬局」になったのか

きっかけは1970年のインド特許法だ。この法律は医薬品の「製法特許」のみを認め、「物質特許」を認めなかった。つまり、新薬と同じ有効成分を別の製法で作れば合法だった。

この制度のもとで、Cipla、Sun Pharma、Dr. Reddy's、Lupin、Aurobindoといったインドの製薬企業が急成長した。2005年にWTO TRIPS協定に基づき物質特許を導入した後も、20年の特許期間が切れた薬のジェネリック生産では圧倒的な競争力を維持している。

価格差の衝撃

インドのジェネリック薬の価格を知ると、日本やアメリカの薬価が別世界に見える。

  • パラセタモール(解熱鎮痛剤)10錠: ₹10〜15(約18〜27円)
  • アモキシシリン(抗生物質)10カプセル: ₹30〜50(約54〜90円)
  • メトホルミン(糖尿病薬)30錠: ₹20〜40(約36〜72円)

インド政府は「National List of Essential Medicines(NLEM)」で約400品目の医薬品に上限価格を設定しており、製薬企業はこの価格以上で販売できない。

インドの薬局の風景

インドの薬局(chemist / medical store)は街のあらゆる場所にある。処方箋(prescription)がなくても買える薬が多く、抗生物質すら店頭で買えるケースがある(2017年以降は規制が強化されているが、実態としてはまだ緩い)。

在住外国人がインドの薬局で驚くのは、同じ有効成分の薬が10種類以上並んでいること。たとえば「パラセタモール 500mg」だけでCrocin(Tata製)、Dolo、Calpol、Metacin、P-500と複数ブランドがあり、価格もバラバラだ。

薬剤師に「一番安いの」と言えば最安のジェネリックを出してくれる。ブランド名にこだわらなければ、医療費は驚くほど安く済む。

Jan Aushadhi Kendra(国民薬局)

2008年に始まった政府のプログラム「Pradhan Mantri Bhartiya Janaushadhi Pariyojana(PMBJP)」は、市価の50〜90%引きでジェネリック薬を販売する専門薬局チェーンだ。2024年時点で全国に約1万店舗以上が展開されている。

Jan Aushadhi Kendraで販売される薬はBureau of Pharma PSUs of India(BPPI)が品質管理しており、WHO-GMP基準を満たしている。ただし品揃えは限定的で、専門的な薬や輸入薬は通常の薬局で購入する必要がある。

在住外国人が知っておくべきこと

インドで薬を買うとき、在住外国人が注意すべきポイントがある。

  • 処方箋は持っておく: 規制が緩いとはいえ、抗生物質やステロイドは処方箋を求められることが増えている
  • MRP(Maximum Retail Price)を確認: パッケージに印刷されたMRPが上限価格。これ以上の請求は違法
  • 1mg / PharmEasy等のオンライン薬局: 配達圏内なら20〜25%割引で買えることが多い
  • 温度管理: インドの気候で薬の保管温度に注意。インスリン等の冷蔵保管薬は停電リスクも考慮する

インドの製薬産業の強さは、14億人の国民に安価な薬を届けるという国家的な意志の産物だ。その恩恵は、インドに住む外国人にも及んでいる。

コメント

読み込み中...