緑のマークと赤のマーク——インドのベジタリアンレストランの仕組み
インドの食品パッケージにある緑の丸と赤の丸は菜食・非菜食の表示義務。人口の約30%がベジタリアンの国で、レストランはどう設計されているのか。
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インドの食品パッケージには必ず、緑色の丸か赤色(茶色)の丸が印刷されている。緑が「ベジタリアン(Veg)」、赤が「ノンベジタリアン(Non-Veg)」。FSSAI(インド食品安全基準局)が義務づけているこの表示は、世界で最も明快な菜食・非菜食の識別システムだ。
ベジタリアン人口と地域差
インド全体の人口に占めるベジタリアンの割合は約23〜30%とされる(Pew Research Center、2021年調査)。ただし地域差が極めて大きい。
- ラジャスタン州: 約75%がベジタリアン
- グジャラート州: 約65%がベジタリアン
- ハリヤナ州: 約60%がベジタリアン
- 西ベンガル州: ベジタリアンは約5%以下
- ケーララ州: ベジタリアンは約3%以下
南インドと東インドは魚・肉食が多く、北西インドは菜食が優勢。同じ国なのに食文化が全く違う。
「Pure Veg」レストランの仕組み
インドには「Pure Veg」を掲げるレストランが大量にある。これは単にメニューが菜食というだけでなく、キッチンの設計から異なる。
- 調理器具の分離: ノンベジ用の鍋・フライパン・包丁を一切置かない
- 油の分離: ノンベジ料理を揚げた油で菜食料理を作らない
- 玉ねぎ・にんにく不使用(ジャイナ教式): 一部のPure Vegレストランは、根菜も使わないジャイナ教の食事規定に対応している
- 卵の扱い: 「Eggitarian」という中間カテゴリが存在し、卵はOKだが肉・魚はNGという人もいる
全国チェーンでは、Saravana Bhavan(南インド料理)、Haldiram's(北インド料理・スナック)、Bikanervala が代表的なPure Vegレストランだ。
ノンベジレストランとの住み分け
ノンベジレストランでもメニューにはVeg / Non-Vegの表示が必ずある。ただし、厳格なベジタリアン(特にジャイナ教徒)はノンベジレストラン自体に入らないことがある。同じキッチンで肉を扱っている時点でNGという考え方だ。
一部のマンション(housing society)では「Non-Veg cooking not allowed」というルールがある。グジャラート州のアーメダバードでは、ベジタリアン専用の住宅地区が存在し、ノンベジ料理の持ち込み自体が禁止されている区画もある。
在住外国人のベジ体験
在住外国人がインドでベジタリアン生活を試すと、想像以上に豊かな食体験に驚く。
- 南インド: ドーサ、イドリ、サンバル、ラッサム。ココナッツベースの料理が中心
- 北インド: パニール(カッテージチーズ)料理。パニール・バターマサラ、パラク・パニール、マタル・パニール
- グジャラート: ダール(豆カレー)、ウンディユー(野菜の蒸し煮)、テプラ(スパイス入りフラットブレッド)
- ストリートフード: パニプリ、バダパオ、チャートの多くがベジタリアン
「肉がないと物足りない」という先入観は、インドのベジ料理のスパイスの層と油のコクの前に崩壊する。パニール・バターマサラのカロリーと脂肪分は、下手なチキンカレーを上回る。
インドのベジタリアン文化は宗教的信条と社会制度が合体した独特のシステムだ。食品表示の緑と赤のマーク一つとっても、14億人の多様な食文化を1つのルールで運用するインドの知恵が見える。