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ジュガード——インドの即興イノベーション文化

壊れたバイクのエンジンで灌漑ポンプを作る。段ボールで冷蔵庫を作る。インドの「ジュガード(Jugaad)」は制約の中から生まれた即興イノベーションの哲学だ。ビジネススクールが注目するその本質と、在住者が日常で遭遇するジュガードの実態。

2026-05-06
ジュガードイノベーション文化ビジネス即興

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インドの農村で、壊れたバイクのエンジンが井戸の灌漑ポンプとして第二の人生を送っている。自動車のバッテリーが結婚式のライトアップの電源になっている。これがジュガード(Jugaad)だ。ヒンディー語で「即興の解決策」を意味するこの言葉は、今やハーバード・ビジネス・スクールやINSEADの教材にも登場する。

ジュガードとは何か

ジュガードの本質は「足りないなら、あるもので何とかする」という態度だ。資金も設備も人材も不足している状況で、既存のものを組み合わせて問題を解決する。完璧でなくていい。動けばいい。

典型的な例がジュガード・ビークル。ディーゼルエンジンを木製の荷台に載せた簡易トラックで、農村部で農産物の運搬に使われている。安全基準は満たしていないが、正規のトラックを買えない農家にとっては唯一の選択肢だった。

ビジネスにおけるジュガード

ジュガードの精神はインドのスタートアップ文化にも深く根を下ろしている。

マンスーリ・イニシアチブ(Mansukh Prajapati)が開発した「ミッティクール(MittiCool)」は、電気不要の陶器製冷蔵庫だ。気化冷却の原理を利用し、野菜や果物を数日間保存できる。価格は₹3,000〜₹5,000(約5,400〜9,000円)。電力供給が不安定な農村部で数十万台が使われている。

Jugaad Innovation(ナヴィ・ラジュ他著)では、このアプローチを「フルーガル・イノベーション(倹約型イノベーション)」と呼び、先進国の企業にも適用可能だと論じている。

在住者が遭遇するジュガード

インドに住んでいると、ジュガードは日常のあちこちに現れる。

エアコンの室外機の下にバケツを置いて結露水を集め、植木の水やりに使う。停電時にUPS(無停電電源装置)のバッテリーで扇風機を回す。配管工がゴムホースとビニールテープで水漏れを「修理」する。後者は翌週にまた漏れるのだが、その場では確かに問題が解決している。

オートリキシャのドライバーが、スマートフォンの充電器をメーターの配線から直接引いている光景も珍しくない。安全性の議論はさておき、あれもジュガードだ。

ジュガードの限界

ジュガードは万能ではない。「とりあえず動けばいい」という発想は、インフラや安全基準の場面では深刻な問題を引き起こす。建築のジュガード的手抜きは倒壊事故につながり、医療のジュガードは患者のリスクになる。

インド政府やインド工科大学(IIT)の研究者の中には、ジュガードを「構造的な投資不足の代替物」として批判する声もある。ジュガードが称賛されるとき、その背景にある貧困やインフラ不足が見えなくなる危険がある、という指摘だ。

ジュガードは美談にも問題にもなる。その両面を見ることが、インドという国の複雑さを理解する入口になる。

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