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食文化

ラクナウのアワディ料理——ムガル帝国の宮廷から続く食の系譜

北インド・ウッタル・プラデーシュ州の州都ラクナウは、ムガル帝国の宮廷文化を受け継ぐアワディ料理の本拠地だ。ガラウティ・ケバブ、ビリヤニ、ニハーリ。「ナワーブの街」の食文化と、在住者・旅行者が訪れるべき店を紹介する。

2026-05-06
ラクナウアワディ料理ケバブビリヤニムガル

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口に入れた瞬間に溶ける肉がある。ガラウティ・ケバブ(Galouti Kebab)だ。ひき肉に160種以上のスパイスを練り込み、炭火で焼いたこのケバブは、歯のないナワーブ(太守)が肉を楽しめるように考案されたと伝えられている。ラクナウの食文化は、宮廷の贅沢と調理人の創意が生んだ芸術だ。

アワディ料理とは

アワディ料理はラクナウを首都としたアワド王国(Awadh、18〜19世紀)の宮廷料理に起源を持つ。ムガル帝国の料理をベースにしつつ、ペルシャの影響とアワド独自の洗練を加えたものだ。

特徴は「ダム・プクト(Dum Pukht)」と呼ばれる密封調理法。鍋の蓋を小麦粉の生地で密封し、弱火でゆっくり蒸し焼きにする。素材の水分と香りが逃げず、肉は繊維がほどけるほど柔らかくなる。この調理法で作るビリヤニ(ラクナウ式ビリヤニ)は、ハイデラバード式のビリヤニとは別物だ。

代表的な料理

ガラウティ・ケバブ(Galouti Kebab): 先述の「溶ける」ケバブ。チャウク地区のトゥンデー・カバービー(Tunday Kababi、1905年創業)が元祖とされる。1プレート₹100〜₹200(約180〜360円)。

ラクナウ式ビリヤニ: ハイデラバード式が生米と肉を一緒に炊くのに対し、ラクナウ式は米と肉を別々に調理してから重ね、ダム・プクトで仕上げる。スパイスは控えめで、サフランとケウラ水(Kewra、タコノキ科の花から採る香水)の香りが特徴。

ニハーリ(Nihari): 骨付き牛肉を一晩煮込んだ濃厚なカレー。もともとは早朝礼拝後の朝食だった。アミナバード(Aminabad)地区の屋台で早朝5:00〜9:00頃に提供される。1皿₹80〜₹150(約144〜270円)。

シルマル(Sheermal): サフラン入りの甘いナン。ケバブやニハーリと一緒に食べる。通常のナンとは全く違う風味。

クルフィ(Kulfi): インド式アイスクリーム。ラクナウのクルフィはピスタチオとカルダモン風味が定番。チャウク地区のプラカシュ・クルフィ(Prakash Kulfi)は行列ができる有名店だ。

チャウク——ラクナウの食の心臓部

旧市街のチャウク地区は、ラクナウの食文化が最も濃縮されたエリアだ。夕方以降、路地の両側にケバブ屋、ビリヤニ屋、チャート屋、甘味屋が軒を連ねる。煙と香辛料の匂いが充満し、人と自転車とリキシャが混然一体となって動いている。

衛生面が気になる場合は、アミナバードの老舗店やハズラトガンジ(Hazratganj)地区のレストランを選ぶとよい。価格は屋台の2〜3倍になるが、空調の効いた店内で同じ味を楽しめる。

食文化が街のアイデンティティになっている

ラクナウ人は「テヘジーブ(Tehzeeb)」——礼儀と上品さの文化——を誇りにしている。食事の作法もその一部だ。アワディ料理を「北インドのカレー」と一括りにするのは、フランス料理を「ヨーロッパの煮込み」と呼ぶようなものだ。

デリーから列車で約5時間、飛行機で約1時間。日帰りは難しいが、1泊2日でチャウクの食べ歩きとイマーンバーラー(Imambara、18世紀のイスラム建築)の見学を組み合わせれば、ラクナウの核心に触れられる。

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