ボローニャが「美食の都」と呼ばれる理由——ラグーの街で食べ歩く
イタリア人がボローニャを「La Grassa(太った街)」と呼ぶのは褒め言葉だ。タリアテッレ・アル・ラグー、トルテッリーニ、モルタデッラ。ボローニャの食文化は、この街が何世紀にもわたって交易と大学の街だったことと深く結びついている。
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「ボロネーゼ」という料理は、ボローニャには存在しない。正確に言えば、日本やアメリカで「ボロネーゼ」と呼ばれているスパゲッティ+ミートソースの組み合わせを、ボローニャ人は認めていない。ボローニャでラグー(肉の煮込みソース)を合わせるのはタリアテッレ(幅8mmの平打ち卵麺)であって、スパゲッティではない。1982年、ボローニャの「イタリア料理アカデミー」はタリアテッレの公式レシピを登録し、幅は8mm、茹で上がりの厚さは2mmと定めた。パスタの幅を公式に定める街。それがボローニャだ。
なぜボローニャなのか
イタリア人はボローニャに3つのあだ名をつけている。「La Dotta(学問の街)」「La Rossa(赤い街)」「La Grassa(太った街)」。1088年創立のボローニャ大学は西欧最古の大学であり、街の赤レンガの建物群が「赤い街」の由来だ。そして「太った街」——これはボローニャの食文化の豊かさを指す、最大級の褒め言葉だ。
ボローニャが美食の都になった理由は地理と歴史にある。エミリア=ロマーニャ州はポー川流域の肥沃な平野に位置し、小麦・畜産・乳製品の生産量でイタリア有数の農業地帯だ。中世以降は南北イタリアを結ぶ交易路「エミリア街道(Via Emilia)」の中心都市として栄え、各地の食材と調理法が流入した。大学の存在も大きい。何世紀にもわたって学生と教授が各国から集まり、食文化に多様性と洗練をもたらした。
ボローニャの定番料理
タリアテッレ・アル・ラグー(Tagliatelle al ragù): ボローニャ食文化の象徴。牛ひき肉(または牛豚混合)を玉ねぎ・にんじん・セロリと炒め、白ワインとトマトペーストで数時間煮込む。仕上げに牛乳を加えるのがボローニャ式。レストランで€12〜€18(約1,920〜2,880円)程度。
トルテッリーニ・イン・ブロード(Tortellini in brodo): 小さな詰め物パスタをカポンまたは牛の澄ましスープで食べる。詰め物はモルタデッラ、生ハム、パルミジャーノ・レッジャーノ、卵、ナツメグ。クリスマスから年末年始にかけてのボローニャの家庭料理の定番だが、レストランでは通年食べられる。トマトソースやクリームソースで出す店はボローニャにはない。透明なブロードで食べるのが正統だ。
モルタデッラ(Mortadella): ボローニャ発祥の大型ソーセージ。直径15〜20cmの断面にピスタチオや黒胡椒が散らばっている。IGP(地理的表示保護)認定を受けており、豚肉100%で作られる。スーパーで€15〜€25/kg(約2,400〜4,000円/kg)程度。薄くスライスして、ティジェッレ(小さな円形パン)に挟んで食べるのがボローニャ式だ。
フリッジョーネ(Friggione): 玉ねぎとトマトをラードでじっくり煮込んだ付け合わせ。地味だが、ボローニャの家庭料理を代表する一品。レストランのメニューにはほとんど載らないが、トラットリアで肉料理の付け合わせとして出てくることがある。
メルカート・ディ・メッツォで食べ歩く
ボローニャの食を最も手軽に体験できるのが、旧市街の中心にあるメルカート・ディ・メッツォ(Mercato di Mezzo)だ。中世から続く市場を2014年に改装したフードホールで、1階には精肉店・チーズ店・パスタ店が並び、2階はイートインスペースになっている。
タリアテッレ・アル・ラグー €8〜€10(約1,280〜1,600円)、モルタデッラの切り立て盛り合わせ €6〜€8(約960〜1,280円)、グラス・ワイン €4〜€6(約640〜960円)。レストランの半額程度で、ボローニャの味を一通り試せる。営業は朝8:30から深夜まで(金土は1:00まで)。
在住者の食卓
ボローニャに住むと、食材の質の高さに気づく。スーパーマーケットでもパルミジャーノ・レッジャーノの24ヶ月熟成が€18〜€22/kg(約2,880〜3,520円/kg)で手に入る。生ハム(プロシュット・ディ・パルマ)も€20〜€30/kg(約3,200〜4,800円/kg)程度。どちらもエミリア=ロマーニャ州の産品で、産地に近い分だけ鮮度と価格のバランスが良い。
毎週金曜・土曜の朝に開かれる「メルカート・デッレ・エルベ」(Via Ugo Bassi)では農家直売の野菜や果物が手に入る。トマト、ズッキーニ、茄子。季節の食材がそのまま今週の献立になる。ボローニャの食文化は、レストランだけでなく家庭の台所の中にもある。