イタリアのパン文化——地域ごとに全く違う主食の姿
イタリアのパンは地域で全く違う。トスカーナの塩なしパン、サルデーニャの薄焼きパーネ・カラザウ、南イタリアの大きなパーネ・ディ・アルタムーラ。「パスタの国」のもう一つの主食であるパンの地域差を辿る。
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トスカーナのレストランでパンを食べたとき、「味がしない」と感じる人は多い。塩が入っていないからだ。トスカーナの伝統的なパン(Pane toscano)は無塩。隣のエミリア=ロマーニャ州のパンにはしっかり塩が入っている。州をまたぐだけでパンの味が変わる。イタリアのパン文化は、この国の地域主義の縮図だ。
北イタリアのパン
グリッシーニ(Grissini): ピエモンテ州トリノ発祥の細長いスティック型パン。17世紀、幼いサヴォイア家の王子の消化を助けるために考案されたと伝えられている。レストランのテーブルに最初から置かれている、あの棒状のパンだ。
ミケッタ(Michetta): ミラノの名物パン。中が空洞で外側がカリッとした丸パン。サンドイッチ(Panino)用に設計された形で、具材を挟むと中の空洞が具を受け止める。パニーノ屋台では「ミケッタで」と指定すると通っぽい。
チャバッタ(Ciabatta): ヴェネト州発祥。1982年にパン職人アルナルド・カヴァッラリが考案した比較的新しいパン。平たく、気泡が大きく、外はカリッと中はもっちり。世界中のサンドイッチショップに広まった。
中部イタリアのパン
パーネ・トスカーノ(Pane toscano): 塩なしパン。なぜ塩が入らないのか。一説には中世に教皇庁が塩に重税をかけたため、トスカーナの農民が塩抜きでパンを焼く習慣を身につけた、とされる。味のない生地にはトスカーナの塩気の強い料理——サラミ、ペコリーノチーズ、リボッリータ(パンスープ)——が完璧に合う。パンを料理の一部として設計した合理性が見える。
南イタリアのパン
パーネ・ディ・アルタムーラ(Pane di Altamura): プーリア州アルタムーラの大きな丸パン。セモリナ粉(硬質小麦粉)を使い、直径30cm以上、重さ1〜2kgにもなる。2003年にEUのDOP(原産地呼称保護)を取得した、イタリアで初めてDOP認定を受けたパンだ。外皮は固く、中は黄色がかったもっちりした食感。1週間以上保存がきく。
パーネ・カラザウ(Pane carasau): サルデーニャ島の極薄パン。紙のように薄く焼いた円形のパンで、「音楽のパン(Pane musica)」とも呼ばれる。羊飼いが長期間の放牧に持参するための保存食だった。そのまま食べても、オリーブオイルをかけてトーストしても美味い。
パン屋(Forno / Panificio)の使い方
イタリアのパン屋は朝6:00〜7:00に開き、昼過ぎには売り切れることも多い。重量販売が基本で、「Mezzo chilo, per favore(500gください)」のように注文する。価格は種類によるが、一般的な白パンで€2〜€4/kg(約320〜640円/kg)程度。
スーパーマーケットでもパンは買えるが、地元の「Forno」で焼きたてを買う体験は別格だ。朝の散歩ついでにパンを買い、帰宅してモカポットでエスプレッソを淹れる。イタリアの朝のルーティンが、そこから始まる。